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「はあ!?」
「ま、そういうことで雨澤君は神谷君の言うこと聞いて。ね。」
「ねっ…て…。」
「その分手当弾むからさ。」
「そらぁ現にいま、新幹線で金沢に向かってるんですから出張手当ぐらいは…。」
「出張手当だけでいいの?」
「え?」
「さすが雨澤君。自分を犠牲にしてまで社の利益に貢献する。日本人独特の自己犠牲の精神。僕は好きだなぁ。」
「いや、ちょ…ちょっと。」
「心配しないで、今回の仕事が終わったらちゃんと報いるから。」
「あ、はぁ…。」
「だから仕事が終わるまでは神谷君の指示に従ってね。」
電話は切られた。
「社長なんて言ってた?」
「今回の仕事終わるまでは神谷さんの指示に従えって。」
「そう。」
神谷は雨澤に缶コーヒーを差し出した。
「よろしくな。雨澤君。」
「あ、はぁ…。」
「盃を交わすとしようじゃないか。」
「盃?これコーヒーですよ。」
「あ、ごめん俺、酒飲めないんだ。」
ではと言って神谷はそれに口をつける。
「刑事みたいに張り込みしたり、変な奴に追っかけられたり、なんなんすかこの2日間は。」
「何なんだろうね。」
「あの連中、また俺らのこと追っかけるとか無いんでしょうか。」
「無いとは言い切れんな。」
「マジっすか…。」
「うん。」
「なんなんすかあの連中。」
「わかんね。でもヤバい連中だってのはわかる。」
「それは俺でもわかります。だって曽我を殺したのはあいつらなんでしょ。」
「それはまだわからん。だからあいつらのことをちょっと調べてやろうと思ってさ。金沢で。」
「金沢で調べる?」」
「うん。」
「なんでわざわざ金沢で?」
「一応それなりに使える人いるから。」
「…探偵とかですか?」
「ちょっと違う。」
神谷の言っていることがよくわからない。そういった表情で雨澤はため息をついた。
「俺、HAJABってIT企業に入ったはずなんすけど。なんでこんなことになってんですか。」
「やったじゃん突貫の動画解析プログラム。IT企業らしい仕事やってんじゃん。あれお前位のスキルがないとあんだけのスピードでできなかったんだから。」
「自分はその仕事だけで良かったんですが…。」
「いや、君を一介のSEで留め置くのは宝の持ち腐れだよ。君はいいもの持ってる。」
「何がですか。」
「ほら刑事の勘的なこと言ってたじゃん。あれズバリ的中してたろ。だから難を逃れることができた。本能というか危険察知能力っていうのか、ああいう人間が生物として生まれ持った能力の高さってのが最後の最後でものを言う。」
「はぁ…。」
「とにかく手伝ってくれよ。社長も報酬ははずむ的なこと言ってただろう。」
「まぁ…。でも返りが大きいって事は、それなりにリスクも…。」
「あぁ大きい。」
「何やるんですか?」
「こんな新幹線の中じゃ言えない。金沢に着いたら俺のオフィスで話そう。」
「オフィス?神谷さん事務所持ってるんですか?」
「うん。」
「え?神谷さんって正直ナニモンなんすか?」
「事務所に行けばわかるさ。」
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「クイーンについては今あれこれとこちらから動くと足がつく可能性がある。しかし奴がこのままの状態でいることは好ましくない。」
椎名からのメッセージだった。
「で、どうする?」
空閑は返信した。
「ルークに始末してもらおう。」
「ルークに?」
「ああ。ルークは警察を押さえている。あいつなら石川の警察を動かしてクイーンを始末することもできるはず。」
「ルークにそこまでの力が?」
「ある。なにせあいつは特高の人間だ。」
「特高?」
「そう。」
「特高って戦前にあった特別高等警察のことか?」
「あくまでも通称だ。正式名称は警視庁公安特課機動捜査班。警視庁にしかない公安特課の精鋭部隊。公安の精鋭中の精鋭ってとこだ。」
「知らなかったぞ…俺…。公安だってのは聞かされてたけど、そこまでのポジションだってのは。」
「あ、そう。」
「なんだ…あいつ俺らにどこまで隠してんだ…。だから信用できないんだ。」
「だからここであいつの俺らに対する協力具合を試すんだよビショップ。」
「と言うと?」
「クイーンは連絡途絶。警察に転んでしまった可能性も捨てきれない。ならば警察内にいるクイーンの手で落とし前をつけさせようじゃないか。君が言うとおり、いまのクイーンを作り出した元凶はルークにあるんだからさ。」
「…いつになったら実用化できるんだ。」
「え?」
「あぁ。いつになったら瞬間催眠は実用化できるんだって!」
「おい…お前…そんな大きな声…。」
「問題ない。車の中だ。それにしても…どんだけ待たせるんだお前らは!さっさと結果出せよ!」
「うるせぇ!サツの中の調整ひとつできねぇ奴がデケェ口叩くんじゃねぇよ!」
「クイーン?ナイト?んでビショップにキング?あーおれはルーク。アホか。ガキの遊びじゃねぇんだよ。ぶっ壊せとかぶっつぶせとか言ってっけど、なんかそこらじゅうでちょこちょこテロっぽいもんが発生してるだけ。今んとこしょぼいんだよ結果が。そもそもノビチョク使っても結果微妙って時点でお察しなんだけどな。」
「おいてめぇ。いまなんつった?」
「しょぼいんだ。結果が。俺がほしいのは破滅だ。」90
ー警察エリートとも言われる奴が、ああも感情露わにするもんか…。
「いや…しかしあいつ、どうも頼りにならないところがある。」
「ルークが?」
「あぁ。」
「でも、あいつにはお仕置きが必要だとビショップ、君言ってたじゃん。」
「確かに…。」
「結局どっちに転んでも君には不利益は無いと思うよ。」
「どうして?」
「クイーンははっきり言って、もう用無しだ。君が鍋島能力を手に入れたんだから。」
「…。」
「ルークも信用できない。だから用のないこの二人を同時に消す絶好の機会だと思わない?」
「…ナイトの制御はどうする。」
「ほらだって、副作用を抑える薬ってのがあるだろう。」
「山県久美子。」
「そう。それで十分さ。リアル山県があれば予定の日までは持つだろう?」
「いや、それはわかんない。」
「持たせるんだ。」
テキストだけが表示される携帯電話の画面。
そこからとてつもない圧が放たれている。
空閑は返信ができなかった。
「最悪、君の鍋島能力を使えばいい。そうすればナイトも山県も動かせるはず。」
「…。」
「理論上は。」
「確かに。」
「ビショップ。君はいま無敵なんだ。なにも心配することはない。」
「無敵…。」
「そう。だから汚れ役は下の人間にやらせな。俺だったらそうする。」
「キング…。」
「昨日、今日、明日。ちゃんフリの例の特集はこのまま配信される。多少の手直しをKに求められたけど、それはこちらの求めるものを却下するものではない。木曜日にはこっちのサブリミナルは完了する。俺らはそのときを待つだけさ。」
ーそのサブリミナルも協力者が転んだせいで、阻止される可能性が出てきた訳なんだが…。
「キング。」
「なんだ。」
「すまない...。」
「なんだよ水くさいぞ。」
メッセージアプリ閉じた空閑は携帯をしまった。
顔を上げた空閑の前には安井隆道の家があった。
家の前には車二台止められるスペースがあるが、そこには車がなかった。
「キング...。本当にすまない...。俺の不手際だ…。」
肩を落とした空閑はその場を後にした。
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