オーディオドラマ「五の線3」

162 第151話


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「え?見た?」
「はい。数時間前です。目鼻立ちがくっきりしてるけど、身体の線が細くってちょっとアンバランスな感じがしたんで覚えています。」

相馬は駅に隣接するホテルの事務所にあった。

「どの部屋に?」
「それはわかりません。」
「カメラ見せてもらって良いですか。」
「あ…はい…。」
「支配人。」

フロントの女性が困惑した様子で部屋に入ってきた。

「なに?」
「例のあの方が支配人を呼んでます。」
「マジかぁ…。」

支配人は相馬を見る。

「そうだ刑事さん。ちょっと力になってもらえません?」
「なんです?」
「さっきヤクザ風の男らがスイートに走って行ったんですよ。」
「え?そうなんですか。」
「これから私対応しますんで、妙な言動があればそこで逮捕とかできませんか。」
「え…。」

「あの、仁熊会は?」
「…そっちはマル暴のシマや。そっちでやる。」150

ーいやいや、ここで俺が出しゃばるとマル暴すっ飛ばしになる…。
ーおそらく岡田課長からマル暴には連絡いっとるやろうし、時期あいつらここに来るはず。

「刑事さん。」
「あ、あぁ。はい。」

ー支配人の横で睨みを効かせるくらいなら問題ないか。

支配人は相馬を帯同してフロントに出ると、そこにはリーゼント頭の男がひとり立っていた。

「支配人さんですか?」
「はい。」

ご多用のところ恐縮ですと丁寧な言葉使いで男は名刺を差し出す。そこには綜合警備会社仁熊会 卯辰次郎とあった。

「お騒がせしまして申し訳ございません。」
「何があったんですか?私どもとしましても他のお客様にご迷惑がかかるようなことはお止めいただきたく…。」
「その名刺にもあるとおり私ども警備の仕事をしてまして。個人のボディーガード的なこともやってるんですよ。で、その依頼主から身の危険を感じたって連絡があって乗り込んだ訳です。御社に迷惑をかけようとしてこんなことをしたわけじゃありません。私どもも仕事の一環でして。」
「でしたら事前に話を通してください。」
「申し訳ありません。」

次郎は深々と頭を下げた。

「ところで支配人。」
「はい。」
「一つ伺うんですが、チェックイン時部屋の鍵はどうなっているのが普通なんでしょうか。」
「え?どういうことですか。」
「窓の鍵が開いてたんですよ。ベランダに出るところです。なんか依頼主がこれを見て気味悪くなっちゃって。」
「いや、それは申し訳ございません…。クリーニング時には基本、施錠を確認する事になってまして。」
「ということは確認漏れということでよろしいでしょうか。」
「おそらくは…。」
「もう一つ良いですか。」
「なんでしょう。」
「いまこのホテルに白人のお客さん泊まっていますか。」
「…すいません。お客様の情報は公開できないことになっています。」
「ではこのホテルの中で今日、白人を見ませんでしたか。」
「申し訳ございません。お答えできません。」

ーなんだ白人って。ホテルなんだから外国人だっていろいろ泊まってるだろう。随分雑な質問だな…。

「おーう。」

次郎の背後から彼の肩を叩く者があった。
彼は振り返る。

「あっ!」
「次郎。久しぶりやな。」
「十河のダンナ。」

ー十河さん!?

相馬は十河と目が合ってしまった。
雨で濡らした肩をハンカチのような者で軽く拭っている十河も目の前に居るのが相馬だと知り、なんでこんなところに居るんだと言う表情を見せ、彼から目を逸らした。

「物騒なことはやめろや。なぁ。」
「ダンナ。俺、何もしてませんぜ。」
「馬鹿野郎。目立ったことはすんなってことよ。」
「…。」
「で、なんだ次郎。」
「いや…。」
「白人がなんだ?」
「ヤバい白人が居るんスよ。」
「どうヤバい。」
「プロです。」
「プロ?」
「はい。」

ーなんだプロって…。

「…。」
「カメラさえ見れば確認できるんです。」
「見せてもらえよ。」
「無理でしょ。」
「わかんねぇぞ。」
「なにアホなこと言っとるんですか?警察でもあるまいしんなもん見せてくれるわけないでしょ。」
「サツおらいや。」
「なに言っとるんスか?ダンナ辞め警でしょうが。」

十河は顎で相馬を指した。

「はい?」
「あれサツカンや。あいつと一緒に見せてもらえばほんで良いがいや。」
「ええ!?」

次郎は漫画のような驚きの声を出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ホテルを出た相馬と次郎は、外に待たせてある黒塗りの車に乗り込んだ。

車のスライドドア閉まる音

「支配人迷惑そうでしたね。」
「そりゃそうでしょう。サツとヤクザがセットで来るんですから。」

次郎のこの言葉に相馬は思わず笑ってしまった。

「で卯辰さん。カメラのデータ、コピーしてそれ全部目で見るんですか。」
「いいえ解析にかけます。」
「解析?」
「はい。顔認証とAIを組み合わせたプログラムをつかいます。」
「なんです…それ…。」
「ところで相馬さんはどちらさんを探しとるんですか。」
「こいつです。」

相馬は次郎に写真を見せる。

「綺麗な顔してますね。まるで中東系の外人みたいや。」
「はい。こいつがホテルに来た事は支配人さんの記憶にもあるそうです。」
「こいつちょっとデータもらえますか。」

データを受け取った次郎はそれをどこかに転送した。

「特定の人物を探すだけなんで、30分程度で解析終わります。こいつと同一人物と思われる画像を時系列に抽出してくれます。」
「本当ですか…。」
「この凄いもの作ったのが今回の自分の依頼主ですわ。」
「まさかその腕前を狙って…とか。」
「わかりません。ただその依頼主、おととい東京でも同じような目に遭ってまして。」
「やっぱりじゃないですか。」
「いやそれは違うと思います。」

あっさりと自分の予想を否定された相馬だった。

「差し支えなければ、こいつ何者なのか教えてくれませんか。」
「サツカンです。」
「え?サツカン?」
「探してるんです。今朝、急におらんくなりまして。」
「あぁ、そうやったんですか。」

車のスライドドアが開かれる音
強面の男がひとり車に乗り込んできた。

「おう。アニキの様子は。」
「大丈夫です。大分落ち着きました。ひととおり調べたら一郎アニキから聞いたホテルに送ります。」
「ああ頼む。」
「ただ、やっぱりプロが関係しとると思いますね。」
「どういうことよ。」
「ほらベランダに出るとこの鍵もそうなんですが、どこにも指紋ないんです。」
「あー…。」
「完全に何かの目的があって部屋に入って、ベランダに出てって感じだと思います。」
「ベランダには?」
「この雨です。」
「だな。」
「そういや、そこに十河のダンナいましたよ。」
「あぁ、このホテルにマル暴来たら適当に対応してくれるってさ。」
「えっなんでそんなに協力的?ってかダンナ、サツカン辞めて久しいんじゃないですか。」
「サツはサツの事情があるんだろうよ。」

こう言って次郎は相馬をみた。
彼はそれに含み笑いをして返すしかなかった。

「あれ?」

白人男性と黒人男性、そしてアジア系と多国籍な人種の姿が相馬の視線に入ってきた。
それぞれが当のホテルからスーツケースを転がして出てきた。

「金沢も本当に外国人観光客が増えました。昔は外国人観光客って言えばチャイニーズばっかりだったんですが、いまは本当に多国籍ですよ。」
「本当ですね。ほら卯辰さんの探してる白人候補のひとりがいますよ。」
「ですね…。」

次郎の目つきが鋭い。

「相馬さん。なんか気になりませんか。」
「なんです。」
「ほらなんかあいつら妙にガタイがいい。」

皆、どちらかというとだぼっとした服装を着ているのでぱっと見気づかなかったが、言われてみれば確かにそうだ。
白人と黒人は日本人とは比較にならないから置いておくとして、アジア系人間までも相当の体つきだ。

「でも大陸系の人間はそもそもの骨格が違うんで、特に珍しいことでも無いような気がしますが。」
「そうですか…。」
「あ、何かしゃべってる。」

相馬は窓を少し空かした。

「Где находится пикап? 迎えはどこだ?」

ーロシア語…。

「Станция. 駅だ。」
スタンツィア

「なんですか。あの言葉。」
「ロシア語。」
「ロシア語?」
「はい。」
「相馬さん。ロシア語分かるんですか。」
「多少。」
「なんて?」
「あいつら駅に行くそうです。そこに迎えが来てるって。」

何か気になる。そう言って次郎はホテルから出てきた4人組の外国人連中を写真に収めた。
相馬と次郎はそのまま彼らの姿を目で追った。駅のロータリーの方へ向かった彼らは遮蔽物によってその動きが見えなくなった。

「あ、あれだ。」

一台の白いバンが大通りの方へ走り出した。

「随分ボロい車でお迎えやなぁ…。あれ平成5年ぐらいの車やぞ。」
「平成5年?」
「ええ。1993年。約30年前の車ですわ。」

次郎がこう言うと、更に一台のハッチバックがその白いバンに続いてロータリーから出庫した。
今度はその車をみた相馬の目つきが変わった。

「どうしました。相馬さん。」
「同じニオイがする…。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「Эй. За вами следят. おい。付けられてるぞ。」
「Я знаю. わかってる。」

バンの運転手は無線で連絡をする。

「Избавьтесь от преследующих вас машин. 後続の車を排除せよ。」
「Понял. 了解。」


しばらく走るも後ろに同じ車がぴったりと張り付いてくるのが、ルームミラーで確認できる。
数分後無線が入った。

「Полная скорость при следующем сигнале. 次の信号で全速力だ。」
「Понятно. わかった。」

車は信号で止まった。
社内は無言である。
交差する道路の車の流れがやがて止まろうとした。

「Давай, пойдем. さぁ行くぞ。」
ダヴァィ ポィデム

信号が青になるかならないかのタイミングで運転手はアクセルを踏み込んだ。
しかしその出足は遅い。間を置かずに後続車が続く。

事故音

ミラーをみると後続車の右側面にSUVが突っ込んでいた。

「Oбезьяна. 猿が。」
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オーディオドラマ「五の線3」By 闇と鮒


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