オーディオドラマ「五の線3」

164.1 第153話【前編】


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雨が窓を打ち付ける。
電話が相手につながるまでの間、その様子を見ていた小寺はため息をついた。

「はい。」
「あ、明石隊長。小寺です。」
「聞いたよ。相手はもう勘づいているというわけだ。」
「はい。」
「取り逃がした連中は。」
「申し訳ございません。」

電話の向こう側から嘆息が聞こえた。

「巻かれました。申し訳ございません。」

再び小寺は謝った。

「やめろ。過ぎたことだ。で、突っ込んできた外国人は?」
「自ら命を絶ちました。警察の調べの前に。」
「なに…。」
「ベネシュとの関係は。」
「未だ判然とせず。」
「収穫無しか…。」
「はい。」
「ベネシュはいつからそのホテルに滞在を?」
「2日前からです。我々を巻いた外国人連中はベネシュと同じホテルに泊まっているわけではありません。奴らはどこからともなく集まってきました。」
「連中は何をしたんだ、そのホテルで。」
「分かりません。しかしベネシュの指示によるものであるのは間違いないでしょう。」
「だな。」
「ひとつご報告が。」
「なんだ。」
「公安特課もそのホテルに居ました。」
「公安特課も?」
「はい。」
「アルミヤプラボスディアに関しては警察はノータッチでとの話のはずだが。」
「それは三好に念を押してありますし、彼の上司もそれをちゃんと理解しています。」
「ということは、公安特課の監視対象もまた偶然、そのホテルに居た。」
「おそらく。」
「アルミヤプラボスディアとオフラーナが同じ場所に集う…んなことあり得るのか?」
「あの二つが連携するなんて考えられません。そもそも役割が違います。」
「…ならばお互いが牽制し合っている…か。」
「そう推察されます。」
「もしそうだとしたら奴らの企みを未然に防ぐ事は可能。」

小寺はしばし無言となった。赤石の意図をはかりかねないところがあった。

「詳細お聞かせ願えますでしょうか。」
「公安特課とオフラーナが手を組む。そしてアルミヤプラボスディアを封じ込める。」
「…。」
「アルミヤプラボスディアはツヴァイスタン人民軍のフロント。そのツヴァイスタン人民軍は同国の秘密警察オフラーナとは犬猿の仲。人民軍側の妙な動きを潰すとなれば公安特課がオフラーナに協力すればそれは防げるのでは。」
「それは…。」
「敵の敵は味方。」
「理屈は分かりますが…。」
「ツヴァイスタン外務省の高官が秘密裏に我が国政府と接触した。」
「接触、ですか?」
「ああ。いま都内の某ホテルで我が国政府首脳と会談を行っている。どうやらアルミヤプラボスディアとオフラーナの動きをツヴァイスタン外務省は承知しているようだ。その収束のための協議を政府首脳と行っているらしい。」
「我が国とここまで友好関係を築き上げてきたツヴァイスタン外務省としては、なんとしてでも今回の破滅的なテロ計画は止めたいところでしょうが、協議の相手が違うような気がします。軍と秘密警察の対立はあくまでも内政問題です。なんでその抗争の地を奴らは我が国に求め、そしてその収拾までも我が政府に求めるのでしょうか。」
「そこがあの国の理解のできんところなんだよ。理解できたらこんなにも苦労はしない。しかし…。」
「しかし?」
「この不確実性極まりない周辺国家の存在無しでは、今日の安全保障体制の強化もなし得なかったことだろう。」
「皮肉なことです。」
「まったくだ。」
「となると、やはりキーとなるのは公安特課ということになりますね。」
「そうだ。」
「しかし敵国秘密警察と我が国治安組織が手を結ぶ…。決して歓迎できない方法です。」
「お互いの眼前の脅威を排除するためだけの共闘だ。それ以上でもそれ以下でもない。ここで時間稼ぎをしておいて公安特課はその機能をさらに強化すれば良い。今後オフラーナのような奴らに食い込まれないようにな。」
「それにしてもこの国の危機管理はいつの世も綱渡りですな。」
「それはどこの国も同じ事。表に出ないだけだよ小寺三佐。」
「いずれにせよ我々は不測の事態に備えます。」
「それなんだが、アルミヤプラボスディアの具体的な戦力はどうなんだ。」
「これもまた判然としません。」
「なんだこちらも未確認情報ばかりだな…。」
「はい。ですからこちらも相応の準備をしています。いざとなれば強制的に周辺住民を退避。実力でねじ伏せます。」

大粒の雨が音を立てて地面を叩き、霧のようなしぶきがあがる。うっすらと靄がかかるそこには車両の準備に余念の無い自衛隊員たちの姿があった。彼らが纏う雨具のしわとなる部分に雨が溜まり、動作のたびにそこから溜まったものが流れ落ちている。重量というものが目で分かる状態だ。

「とはいえそればかりに気をとられて、本陣ががら空きというのはいかんぞ。」
「それに対してもこちらの連隊長は承知しています。」
「よし。」

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