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「最上さんを狙ってノビチョクを盛った…。」
「はい。それが公安特課に最も混乱をもたらせると判断して、朝戸に実行させたそうです。朝戸は光定によって最上が白銀篤であると刷り込まれていたそうです。」
片倉はため息交じりに呟いた。
「つくづくクソやな…。」
「その肝心の朝戸の妹をひき殺した人間なんですが、それは白銀で間違いは無いそうです。」
「いやそんな奴は警視庁にいない。これは確認できた。」
「はい白銀はサツカンでも何でもありません。ただの民間人です。」
「なに?」
「これはさっき椎名が理事官に言ったように、紀伊によるでっち上げだったようです。紀伊が朝戸の妹の事故死を独自で検証。結果、それらしき車両を発見。ここで所轄署に黙って紀伊は事件をもみ消すことが出来るから協力せよと被疑者、白銀と接触。車両の写真を撮影した後、白銀自身を口封じのため殺害した。そして所轄署に噂を流した。警察幹部の白銀篤という人物の倅が朝戸の妹をひき殺した。しかしそれを圧力をもってもみ消していると。こうすることで所轄署内部の不穏な雰囲気を作り出します。その空気を敏感に感じ取った朝戸は架空の被疑者である白銀篤の存在を信じ込み、奴に対する復讐心を募らせていったそうです。」
「…手の込んだ芸当を…。」
力なく電話を切った片倉は百目鬼に首を振った。
スピーカモードのそれに聞き耳を立てていた百目鬼はそれに頷いた。
「徹底的だな。あいつら。」
「はい。」
「椎名班は今どこだ。」
「あと5分程度で到着です。それよりも理事官。」
「わかってる。雨だろ。」
「はい。ヤバいですこの降り方。方々の機動隊から冠水とか浸水の報告が入ってきています。マルバク探そうにもどうにもなりません。」
「確かに…。これだけの雨だと、あらかじめ設置したものが流されてってこともあり得るな。」
「いやいや、それはマズい。」
「でも片倉こう考えられないか。その危険性があるなら。奴らはそれをどうにかするために動く。」
「はい。」
「でもそれらしき連中の動きを捜査員は捉えられていない。」
「はい、そうです。」
「ということはハナからマルバクは設置されていない…とか。」
「んな馬鹿な。じゃあどうやってやるんですか。」
「当日に運搬する。」
「運搬?」
「ああ。」
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「少佐。金沢北署に再び入りました。」
「また?」
「はい。」
コーヒーチェーン店の窓際の席で、豪雨の外の様子を眺めながらチャットにいそしむ矢高の姿があった。
「なにか変わった様子は。」
「この大雨の中、移動中の車の窓を時々開けていました。」
「窓を開ける…。」
「どうしますか。」
「北署内の協力者は。」
「います。現在署内にいます。」
「よし。それとなくお力添えが出来ることがあればなんなりと言ってくださいと近づいてくれ。」
「了解。」
「あ、くれぐれも出しゃばるな。何かあればこちらまでって具合でいい。」
「了解。」
スマホをうつ伏せの状態でテーブルにおいた矢高は、その苦い苦いコーヒーを飲んだ。
「極秘任務…。」
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金属を削る音
金属を叩く音
溶接の音
ドアを叩く音(激しい)
溶接マスクを外したマスターは怪訝な顔つきで扉を開けた。
「なんだ!こっちは忙しいんだ。」
「大変です!水が!」
こっちが言い切る前に店員はそれを遮るように言った。
ただ事ではない。それを察知したマスターは部屋を飛び出した。
15段ほどの階段を登るとマスターは異常に気がついた。
人気店であるはずのこの店に客がひとりもいないのだ。
「どうしたんだ。」
「どうもこうもありませんよ!いま商店街で土嚢を用意してるんです。」
「土嚢?」
「線状降水帯ですよ。浅野川がヤバいらしいです。あそこがやられたらここもアウトです。」
「なにっ!」
慌てて外に出たマスターはその光景に絶望した。
凄まじく振り付ける雨が外を白ませている。雨樋は機能していない。そこからあふれた雨水がゴボリゴボリといって滝のように吐き出されている。
「こりゃあマズいな…。」
マスターは地下に続く階段を見やる。このままでは地下に水が流れ込むのも時間の問題だ。
「おい。お前は地下のブツをとにかく高いところに移動しろ。」
「はい。」
「俺もやる。若い衆は商店街の連中と共同して水害に備えさせろ。」
「ですが自分とマスターだけじゃ無理です。」
「若い衆に手伝わせるわけにいかんだろう。応援を呼ぶ。」
「応援ですか。」
「ああこいつは俺らだけじゃ無理だ。」
「どっちにですか。」
「決まってるだろう。矢高さんだよ。」
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携帯が震える音
「はい。」
「緊急事態です。」
「なんだ。」
「応援をよこしてください。」
コーヒーに口をつけていた矢高の動きが止まった。
「まさか…。」
「はい。浅野川がやられたらウチは終わりです。」
感情というものをまったく表に出さない矢高だったが、このときの彼の顔面は蒼白となっていた。
「全部終わったか。」
「いいえ。ですが半分程度はできています。」
「使えるか。」
「使えないことはないでしょう。」
「よし。すぐに運び出す。誰か寄越してくれ。」
「だから人手がありません。こっちにそれをよこしてください。」
矢高は頭を抱えた。
「時期ヤドルチェンコが人をここまで遣わせるでしょう。それとバッティングしたら最悪です。」
「そうだな…。」
「矢高さん。」
矢高はしばらく黙った。
「矢高さん?」
「マスター。それ、ヤドルチェンコに渡してくれないか。」
「え?」
「そうだ。それがいい。」
「何言ってるんですか?これアルミヤのブツでしょう。」
「ベネシュ隊長には自分が言って聞かせる。」
「駄目ですよ。そんな独断で決めちゃあ。」
「いや、それしかない。当局の目をかいくぐるにはそれしかない。」
「なんで?」
「アルミヤはすでに自衛隊にマークされている。」
「…。」
「公安特課の目をボストークからそらすことは成功したが、今度は自衛隊だ。」
「公安特課がガサを入れ、続いて自衛隊がとなるとこの店、逃げ場なしですね。」
「だろう。」
「チェス組やヤドルチェンコの注意は逸らしたけど、本丸アルミヤが完全マークされるとなると、計画は失敗になる。」
「だったらいっそのことそれ、奴らにくれてやれ。で、濡れ衣を着せてやるんだ。」
「でもどうするんですか。計画が完全に狂いますよ。」
「いい。よくよく考えたらこのやり方もちょっと微妙だ。」
「ここでそれ言いますか?」
「ドローンを操縦するのがアルミヤじゃなくてヤドルチェンコ側になるってだけだ。」
「アルミヤプラボスディアが操縦するから確実に目標に散布できるんじゃないですか。だから無駄な損耗を抑えることができる。素人のあいつらがこいつを操縦したらとんでもない事になるかもしれません。」
「とんでもない状況になるのはむしろ望むところ。ますますアルミヤプラボスディアの存在意義が高まる。」
「しかしこれがあいつらの手に渡るってことは…。」
「アルミヤプラボスディアとしても一定のダメージを考慮に入れねばならんということになる。」
「…それをベネシュ隊長がうんといいますか?」
「それをうんと言わせるのが俺の仕事だよ。マスター。」
マスターは黙った。
「非道はヤドルチェンコにお譲りしよう。あいつらは派手目のことをやりたいんだろ。さらに派手なアイテムが加わったとなれば危機として喜ぶはず。いずれにせよマスター。あんたの手元にあるそれが水に浸かっておシャカになるよりよっぽど良いと思わないかね。」
「自分は、矢高さんを信頼しています。」
「ありがとう。君は本当に頼りになる。」
「しかしどうしても引っかかっていることがありまして。」
「なんだ?」
「矢高さん。ドンパチだけだと脳がないっていってませんでした?」
「ああ言った。それは俺の信条だ。もうそんな時代じゃない。」
「今、ドローンをアルミヤから奪うとなると、あいつらただの戦闘集団ですよ。」
「マスター。俺はドンパチだけだと脳がないって言ってるんだよ。」
「いや、だから。」
「ドンパチだけだといけないんだ。」
「ん?」
「いいかい。最後は力。その力だけを頼るのはいけないって事なんだ。頭はあくまでも力を使うために、もしくは力を有効に使うために使うんだ。」
「…。」
「力だよマスター。最後にものを言うのは。」
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それからまもなく一台のバンがボストークの前に横付けした。
店の入り口にはCLOSEの札が出されていた。
「おう待ってたよ同志。」
マスターは中東系の男ら四人を店の中に招き入れた。
「店閉めたのか。」
「ああこんなじゃ商売にならない。」
カウンター奥に大小様々なライフルケースのようなものがずらりと並んでいた。
「なんか多いような気がするが。」
「あぁお土産つけておいた。」
「お土産?」
「ちょっとな。派手にやりたいって言ってたろ。ヤドルチェンコ。」
「ああ。」
「C4だけだとちょっと盛り上がりに欠けると思ってな。こいつら持って行ってくれ。」
マスターは大きなケースを指さした。
「何が入っている。」
「ドローン。」
「ドローン?」
「ああ。車で突っ込んでドカンもいいが、こいつで突っ込んでドカンも派手だろ。」
「同志マスター。」
中東系の彼はマスターの肩を抱いた。
「ヤドルチェンコの覚悟みたいなもんを俺は見た。俺にできることは精一杯させてもらうよ。」
「恩に着るよ。」
「…無駄に死ぬ必要はないぞ。同志。」
「何言ってる。死を恐れていては何もできない。」
「車で突っ込むんだろ。確実に犠牲が出る。」
「それは本望だろう。それを担うのも神の思し召しだ。」
「お前、ウ・ダバに入ってどれくらい経つ。」
「10年だ。」
「古参だな。」
「まあな。」
「名前は。」
「アサド。」
「アサド…。」
「獅子、勇敢な男という意味がある。」
「…。」
「どうした。」
「いや、つい最近お前さんと同じような名前の男に会ってな。そいつもお前さん同様良い面構えしてたんだ。」
「ほう。」
「なんて名前なんだ。そいつ。」
「日本人だが、朝戸っていうんだ。」
「アサト?」
「そう朝戸。」
「確かに似ているな。」
「それにしてもウ・ダバはビジネステロ集団に成り下がっちまったかと思っていたが、アサドのような良い面してる奴もまだまだ居るんだな。」
アサドは肩をすくめた。
「それはどうかな。」
マスターはそれには苦笑いで応えた。
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