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「国土交通省と気象台によりますとこの大雨で石川県の金沢市を流れる浅野川は芝原橋観測所と天神橋観測所で「氾濫危険水位」に達しました。国と気象台は洪水の危険性が非常に高まっているとして「氾濫危険情報」を出して厳重に警戒するよう呼びかけています。自治体の避難情報を確認するとともに浸水のおそれのない場所に移動するなど、安全を確保するようにしてください。」
宿を追い出された古田は避難所である近くの小学校にいた。
避難所にあるラジオから、現在の大雨の状況が古田の耳に入ってきていた。
「代わりの宿は?」
「一応抑えれたんですが、この雨ですから。」
「タクシー呼ぼうか。自分の知っとるタクシー会社なら来てくれると思うよ。」
「あ、えぇ。いや、一応仕事の関係の人が迎えに来てくれるって事になりまして。なんでしばらくだけここに居ても良いですか。」
「しばらくって?」
「迎えに来るまで。」
「ラジオでも言っとるように浅野川の上流で氾濫危険水域やって言っとるし、すぐにここの辺りもそうなる。雨が弱まれば少しは安心なんやけど…。」
「スマホで雨雲レーダー見たら、あと20分ほどで雨脚は弱まるみたいですよ。」
「雨が弱まってもすぐに水が退くわけじゃないからね。危険には変わりないよ。用心に越したことはない。」
「確かに。」
それにしてもと古田はこの避難所にいる人間が少ないのではないかと指摘した。
これに対応の男は首を振る。
「この辺りは高齢者が多くて、まぁ動きが遅いンやわ。一応消防団とか町内の人間が声かけしとるんやけど、まぁゆっくりしとる。しゃあない。それにしても集まり悪いなぁ…。」
一応年に一度は災害対応の訓練を地域で行っている、その際はまぁまぁのできだった。しかしいざ本番となるとこうも動きが鈍いものか。彼は嘆息を漏らす。
「それはそれとして、ほらこの辺りって意外と外人さん多いでしょう。」
「あぁ観光の。」
「いや、それもそうなんですが、白人の男の人らあのアパートにたくさん滞在しとるんでしょ。」
古田は外を指さす。
「あんたよその人なんに、ようほんなこと知っとるね。」
ここに来たとき、近所の女性にいろいろ教えてもらったと古田は彼に説明した。
「一応呼びかけに行ったんやわ、消防団が。ほしたら分かったって言ってそのまんま。気にはなっとれんて…。」
しかし相手は外国人。外語を話せる人員はここには居ないと彼は言う。
「自分行ってきますか?」
「え?」
英語を話せるのかと尋ねられ、古田は話せないがなんとかなると言った。
「スマホですよスマホ。こいつ使えばなんとかなります。」
人は見かけによらない。相手によっては失礼に受け止められる言葉を彼は口にしハッとした。
古田は意に介さない様子でアパートの方面に向かった。
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あのアパートには管理人はいない。全部の部屋に外人が住んでいるから適当な部屋を当たれば良い。
そう聞いた古田は一階のある部屋のインターホンを押した。
雨音に
インターホンの音
返事がない。
何度か同じ事を試みるも同じ反応だ。
留守なのかと思い、他の部屋を当たる。
インターホンの音
「ここも?」
再度インターホンの音
返事がない。
隣の部屋に移動した古田はそこでも同じ事を試みた。
しかし反応は同じだった。
「おかしいな…。」
こう呟いたときのことだった。彼は後ろから肩を叩かれた。
びっくりして振り返るとそこには髪を短く刈り込んだスポーツウェアの男が立っていた。リュックサックを担いでいる。
見た限り日本人だ。ここの住人では無さそうだった。
「あんたここで何やってんだ。」
「ひょっとして消防団の方ですか?」
男は首を振る。
「じゃあ。」
「こっちが聞いてる。手当たり次第ピンポン鳴らしてるみたいだけど、あんた何やってんの。」
「いや、この大雨ですから避難した方が良いって呼びかけようと思って…。でも何反応もないんです。」
「え?」
男の顔色が変わった。
そして自分も手伝いますと言って、彼は二階の方に駆け上がり部屋を当たる。
しばらくして古田の元にやってきて首を振った。
「全部居ない…。」
「全部居ない?」
ここで古田は気がついた。かれの右耳にイヤホンのようなものが装着されている。
「サツか。」
彼はハッとして古田を見る。
「おまえサツなんか。」
彼は目を逸らす。
「なんやわれ、ワシのこと付けとるんか。面倒なことするんじゃねぇって暇出したくせになんか監視しとるんか。誰の差し金や言ってみぃや。」
急に酷い言葉遣いで食ってかかる古田を彼はぽかんとした表情で見た。
「おい言わんかワレ。」
「勘違いです。」
「はぁ?んなイヤホンなんか着けとって、サツじゃねぇとかほざくなや。」
「警察とウチは相互不干渉です。」
「は?」
「はい。」
「ウチ?」
「はい。」
「ウチ…って…。」
「自衛隊です。」
「自衛隊?」
すると彼は装着していたイヤホンを指で押さえた。しばらく何かを聞いているようだった。そして了解と言って担いでいたリュックからごそごそと何かを取り出した。
「え?了解って?」
古田が彼の様子に戸惑いを見せているうちに、彼はリュックからハリガンバーを取り出して扉の隙間に強引にねじ込んだ。
するとどこからともなく別の男が登場。そのバー向かって大型のハンマーでたたきつける。
扉の隙間にぐっと入り込んだハリガンバー。それを男はてこの原理で引っ張る。するといとも簡単にそれは開かれた。
と同時にいつの間にか数名の男がそこに居て、彼らは小銃を抱えて流れるように中に突入した。
この間、ものの数分の話。古田は唖然としてその場に立ち尽くしていた。
「オールクリア!」
この声が部屋の中から聞こえたかと思うと、先ほどのジャージ姿の彼がやってきた。
「もぬけの殻でした。」
彼はイヤホンを抑えて誰かに報告を入れている。
「了解。撤収します。」
彼はこの場で合流した複数の男たちと、雨のしぶきの中に消えていった。
「なんじゃあ…こりゃ…。」
あまりの突然のことに古田はその場で腰を抜かしたように座り込んでしまった。
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