オーディオドラマ「五の線3」

182 第171話


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- 椎名はテロ実行直前までチェス組と連携し彼らをエスコートする。そこに警察は介入しないこと
- 実行直前に公安特課の出番をつくるので、相応の人員を用意すること
- 空閑と朝戸にはしっかりと専任者を配置し、勝手な動きをしないよう監視を強化すること
- サブリミナル映像効果を少しでも薄めるため、こちらで用意した動画をちゃんねるフリーダムで短時間で集中的に配信すること
- テロは爆発物によるものであるはず。可能性を徹底的に排除すること
- 朝戸がテロの口火を切る行動をし、その後にヤドルチェンコがウ・ダバを使ってさらにそれを派手なものにする手はずである。したがってウ・ダバらしき連中の行動はつぶさに報告を入れること
- その他現場サイドで気になることがあればすぐさま椎名に連絡し、その判断を仰ぐこと

これが当初、椎名から警察側に要請されていたことだ。
空閑が保持してるであろう鍋島能力に関することも、今回の警察が椎名を隔離することも一切取り決めがない。

「だからと言ってここで椎名を完全隔離ってのは…。」

百目鬼は困惑した。

「理事官。椎名はまだ何かを企んでいます。」

腕を組んで片倉の顔をちらっと見た百目鬼は大きく息をついて視線を逸らした。

「椎名と話してくる。」

ドアが閉まる音

「空閑は鍋島能力を持っている。これは間違いないか。」

しばらく間を置いて椎名。

「間違いないかどうかは私にも分かりません。どうやらそのようだとしか。」
「お前自身、確証がないのか。」
「はい。未だに半信半疑です。」

空閑は鍋島能力を身につけている。この情報を得た椎名はダメ元で大川説得にその能力を使って見ろと指示を出した。結果それは功を奏したわけだが、椎名にとって空閑の持つ能力については未だ信用に足らないらしい。

「だから試してみたかった。」
「さすが百目鬼理事官。その通りです。」

百目鬼は大きく息を吐いた。

「鍋島能力に関しての取り決めがないんだから、その能力が本当にあるのか、使えるものなのか。そういった実験をするのも椎名、お前の自由だと?」
「はい。私は一方的にこのような完全隔離状態にされているんですから。」

百目鬼は二度頷いた。

「片倉。こういうことだそうだ。」
「はい。」

片倉の返事が部屋にあるスピーカーから聞こえた。

「椎名、残念やったな。サングラスかけて空閑の対応したら、鍋島能力の有無は検証できんぞ。」
「だから参りましたと言いました。」
「いまから空閑を逮捕する。」
「ご自由にどうぞ。空閑は紀伊に命じて光定を殺害せしめました。」
「…。」

この椎名の言葉に片倉からの返事はなかった。

「ここで空閑が消息を絶つと、朝戸やウ・ダバの連中に怪しまれないか。」

百目鬼が椎名に聞いた。

「問題ありません。自分が制御します。」
「…。」

椎名の目を見つめて黙った百目鬼だったが、彼はおもむろに一台のスマートフォンを椎名の前に差し出した。

「解析が終わった。これはお前に返す。」
「…。」
「お前さんが制御するんだろう。」
「片倉さんが黙っていませんよ。」
「あいつは俺の部下だ。」

しばらく黙って椎名はそれを受け取った。

「百目鬼さん。」
「なんだ。」

椎名は声に出さずに口を動かした。
その動きを見た百目鬼は手元にあるスイッチを押した。

「この部屋の音は外に聞こえないようにした。」
「私にはその真偽を確かめる術がありません。」

椎名は百目鬼にそう即答した。

「アナスタシアに関する情報は公安特課でも俺以上しか知らない。」
「片倉さんも?」
「ああそうだ。このテロ対でアナスタシアという言葉を知っているのは俺だけだ。だから案ずるな。」

で、何が聞きたいと百目鬼は尋ねる。

「アナスタシアがどうしたんですか。」
「…。」
「公安特課はアナスタシアのどこまでを知っているんですか。」
「それは言えない。」
「彼女は息災なんですか。」
「それも言えない。」
「どうすれば教えてくれるんですか。」
「今回の結果次第だ。」
「結果次第とは。」
「何度も言わせるな。テロの防止と一斉検挙だ。」
「…。」
「だから変な気を起こすな。いまの空閑の一件は看過できん。」
「申し訳ございません。」

椎名は伏して百目鬼に詫びた。

「お前がこっちを試すのは構わん。だがこっちもお前を試させてもらう。火遊びが過ぎるとお前も俺らも共倒れって未来もあるってのを理解しておけ。」
「わかりました。」
「エレナと連絡はとっているか。」
「エレナ?」
「ああ。」

椎名の反応にかなりの間があった。

「いいえ。」
「そうか。」
「彼女は…。」
「それも言えない。」

やはりと言った顔を椎名はした。
百目鬼はエレナと連絡を取っているかと聞いた。ということはエレナは少なくとも健在であるということだ。
椎名はエレナとはそれほど接点がない。アナスタシアの送迎で彼女の家に寄ることがあり、そこで二三度顔を合わせた程度だ。しかしあの時、アナスタシアがオフラーナに連行されて行く時、自宅の窓からこちらに向かって憎悪に満ちた表情を見せていたことは鮮明に覚えている。アナスタシアが連れ去られていった原因は椎名にある。そうとしか思っていない表情だった。
まさかそんなことまでも公安特課は把握しているのか。いや、あのエレナの顔は自分しか見ていないはずだ。となるといま目の前で告げられたエレナの名前にはどういった意図があると言うのか。今の椎名には推し量ることができなかった。

「昼までは特に自分はやることがありません。現場は準備が整ったようですので。」
「俺らはどこで何をしていれば良い?」
「警察はまず金沢駅周辺に実力部隊を秘密裏に配置してください。ウ・ダバは5班編制で金沢駅に襲来します。それを力で抑え込んでください。」
「襲来を待って抑えるのか。」
「はい。」
「その手前で抑えられないか。」
「いかんせん、直前のウ・ダバの所在までは自分は把握できません。ウ・ダバの指揮を執っているのは私ではなくヤドルチェンコですから。なので直前の17時半に近隣を封鎖しましょう。人の往来にもそこで規制をかけましょう。」
「そんなギリギリで間に合うか。」
「ギリギリでないとテロ自体が中止となる恐れがあります。しかしこれだと犯行グループの一斉検挙という目的は達成できません。」

公安特課が最優先することはテロを未然に防ぐこと。犯行グループの一斉検挙はおまけだ。市民の生命と安全を守ることが最も優先されるべきものであり、本来なら犯人検挙は後回しでも問題ない。百目鬼は正直そう思っている。しかし昨今の警察に対する世論の風当たりを考えると、テロの防止はできても犯行グループを取り逃がしたと報道されれば、更なるバッシングが容易に想定される。警察上層部はそれを恐れ、今回の事案に関しては、何が何でも犯行グループの検挙をセットでと言ってきている訳だ。

「百目鬼さん。」
「なんだ。」
「ヤドルチェンコの班は5名で1班です。2名で1人を抑えるとして、少なくとも50名の熟練した実力部隊員が必要です。」
「50名?何手心細い人員だ。」
「ではもっと手配していると。」
「数は秘密だ。しかし相応の人員を手配しているとだけ言える。」
「それは頼もしい。」
「因みにやつらの装備はどんなもんだ。」
「奴らも相応の武装をしていると考えてください。機関銃、手榴弾、RPGといったもので普通に攻めてきます。」
「SATは相応の装備と訓練をしている。なので対応については問題は無いと思うが、問題は相手方に気づかれずにどう配置させるかだ。」

椎名は金沢駅を移した衛生画像をスマホで表示した。

「奴らはおそらく金沢のシンボルである、この鼓門を破壊するでしょう。なのでこの門の上やもてなしドームの上に潜むというのは得策ではありません。」

百目鬼は頷く。

「ではその地下広場ならどうかとなりますが、低地から高地の制圧となります。地下広場は構造上広く見下ろせますが、見上げ分には視界を広く保てません。従ってこちらも選択しないほうが良いでしょう。」
「ではどうする。」

椎名は金沢駅に向かって右側の施設を指さす。

「ここに商業ビルがあります。この施設に協力してもらってバックヤードに潜ませましょう。」
「このビルの規制はどうする。」
「先ほどの17時15分をリミットに全員退去してもらいます。もちろんテロがあるという理由でなく、急遽メンテナンスが必要なったためとかで、アナウンスしてもらいます。17時15分には従業員が退去しはじめます。17時半には規制をしますので、一定の安全確保はできるものと思います。」

椎名は続ける。

「この商業ビルの高所に狙撃犯を配置します。1階の部隊は金沢駅に侵入してきた平地のテロ部隊を制圧します。1階部隊はこのビルを出て鼓門を包み込むよう音楽堂方面へ圧迫。音楽堂やホテルと言った周辺の施設はもちろんこの時にはアリ一匹も入り込ませない警備状況を作り出しておくことが必要です。」
「わかった。」
「この時注意して欲しいことがあります。」
「なんだ。」
「躊躇わないでください。」
「何を。」
「相手はテロリストです。検挙は最良ですが、最良を求めるがあまり犠牲を出すのは愚です。基本は力で制圧する。結果数名検挙程度で良とするくらいの割り切りが必要です。」

椎名の的確な作戦立案に百目鬼は驚きを隠せなかった。これがツヴァイスタンの秘密警察か。まるで軍人のようではないか。

「オフラーナはこのようなテロ対策も任務の一つに?」
「はい。ツヴァイスタンの国境近くでの少数民族のテロ事件は比較的多く発生しています。自分の何度かその現場にかり出されましたので。」

なるほど、ますますこいつは敵に回したくない。そう百目鬼は思った。

「今のお前の作戦。SATにも図ってみる。採用するかしないかはあいつらが判断する。」
「もちろん。自分の作戦はあくまでもプランAです。検討いただけるなら幸いです。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

備え付けの電話がなったのでそれに出た。

「はい。」

電話の取次の案内だった。
自分がこのホテルに滞在しているのは椎名しか知らない。

「どなたからですか。」

椎名さんとおっしゃる方からですとの返答だった。
あり得ない。どうして椎名が携帯ではなく固定電話に連絡をよこすのだ。何かあったのか。
不審に思いながらも空閑はそれに出た。

「もしもし。」
「ビショップか。おれだキングだ。大川の件よくやった。」

やはりキングだ。

「どうした。」
「携帯を奪われた。」
「え!?」
「すまない。俺としたことがヘマした。」
「何があった。」
「説明すると長くなる。もうしばらくしたら俺の使いの人間がその部屋に行く。そいつに金を渡して携帯を用意するよう手配してくれ。」
「待て。公安がうろうろしてるんだぞ。」
「大丈夫だ。ルームサービスとしてお前のところに行く。」
「でも身体検査くらいされるだろう。」
「それくらいうまく凌いでみせるさ。」

間もなく部屋のインターホンが鳴った。

のぞき窓には制服姿の女性がうつむき加減で映っている。
空閑は部屋のドアを少し開いた。
刹那彼女はそこに右足をねじ込んだ。
そしてそれを閉めようとする空閑の手を振りほどき、ドアを全開した。

「てめぇ!」

空閑は彼女の顔を見た。
彼女はサングラスをかけていた。

「!?」

彼女の背後から2,3名のこれまたサングラス姿の屈強な体つきの男達が続いて部屋に突入してきた。
あっという間の出来事だった。

「空閑光秀。殺人教唆の疑いで逮捕状が出ている。署まで来てもらおうか。」
「逮捕状?」
「あぁそうだ。」
「待ってくれ。」

空閑は男の目を見ようとするもサングラスで隠れているため、それは適わない。

「何を待つんだ。」
「いや…。キング…。」
「キング?なんだそれは。」
「5月1日 8時10分 確保。」

男に手錠をかけられた空閑はその場に崩れ落ちた。

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【X】
https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM

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