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民泊の床下から続く通路は20メートル先の廃屋に通じていた。そこには生活の形跡はなく、何者かが常駐していた様子もなかった。ただ鑑識によるとバイクのタイヤ痕のようなものが確認されており、ここに出た朝戸は、そのバイクに乗って何処かへ移動したものと考えられた。
「駄目です。目撃情報はありません。」
地取り捜査の報告を受けた岡田は肩を落とした。
「自衛隊も公安特課も踏み込んだら対象居ませんでしたって…。」
昨日、自衛隊が踏み込んだアパートは今回の民泊とは目と鼻の先だ。どちらも常時監視という力の置きようで対応していたのにこのざまだ。こいつは四方八方から無能のそしりを受けるなと、気が滅入る岡田だった。
「地下通路って随分前から準備していたんですね。」
「…そうやろうなぁ。」
彼は机に広げられた現場付近の地図を見下ろしながら、生返事でしか応えることができなかった。
「ん?いま何て言った?」
「え?」
「あれ、お前、いま何て言った?」
「あ、いや、地下通路って昨日今日作れるもんじゃないでしょ。だから相当前からこのことを想定して準備していたんですねって。」
岡田は捜査員を見て目をしばたかせた。
「それだ。」
捜査員は首をかしげて岡田を見る。
「そうだ。どれだけの歳月をかけて準備をしてきたのかは知らんが、それがこうも立て続けに当局に踏み込まれるなんて、向こうにとったらしくじり以外のなにものでもないはず。」
「そうですね…。」
「なのに向こう側が焦っているような感じがせん…それ、俺だけかな。」
例の爆破テロは本日18時の予定である。あと6時間しかない。この土壇場で予定外の状況が発生し、今焦らないでいつ焦るというのだ。
「椎名が焦っていると自分聞いています。」
そうだった。この朝戸の失踪で一番焦っているのは椎名だった。テロの首謀者が一番焦っているのだから、岡田の見当違いだ。しかしその焦りをなぜか岡田は共有できない。その焦りの現場に自分が居なかったからか。
「暴走か…。」
「はい。」
「本当に暴走かね。」
「司令塔と突然連絡が取れなくなったんです。暴走といえば暴走じゃないですか。」
「この暴走も予定通りとかやったら話変わってくるんやけど。」
しかしその線は薄い。そう百目鬼らは判断している。椎名としてもここにきて制御不能の状況を作りたくはないだろうという見立てからだ。
しかし岡田はどうも納得がいかない。
この日のため莫大な月日と費用をかけて椎名達は準備をしてきたのだ。ちょっとやそっとのことで計画をふいにするなんてありえない。多少の変更点はあっても大筋は変えずに実行されるはず。
「制御不能を偽っとるとか…。」
制御不能をもしも偽っているとしたら、どこかでそれは回復をするはずだ。
朝戸は金沢駅にやってくる。きっと来る。なぜか岡田はそんな気がした。
この岡田の感覚を上司である片倉や百目鬼が抱いていない、何てことは考えにくい。彼らも岡田と同じ考えを持っていることだろう。
となればここで朝戸の行方を捜すことに力を割くことは、無駄とは言わないまでも、それほど価値ある事であるようには思えない。金沢駅にやってくるなら、その姿を捕捉した段階で排除する。それだけでよい。
「でもこれもただの俺の憶測…というか勘…。」
正直、いまの状況であっちこっちに人員や労力を割くことはできない。全員が疲労の局地にある。それがあと6時間。その6時間後にはいままでに経験をしたことがない極度の緊張状態を迎える。むしろ土壇場の今はそれに備えて休息をとらねばならないフェーズにある。おそらくこういった配慮もあるのだろう。百目鬼と片倉は朝戸の行方については、捕捉次第手か足を撃って、動けなくせよとだけ指示を出している。何が何でも探し出せとの指示は出していない。
朝戸は深追いしなくていい。俺は少し休む。お前も少しは休め。本番は6時間後だ。そう言って岡田は本部を後にした。
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