♪第2話:トワと美里、ジュニアオーケストラ以来の共演…再び同じ舞台に立つ運命の二人
みなさま、はじめまして、こんにちは。
CMSL所属のピアニスト、永井美里です。どうぞよろしくお願いします。
ピアニスト…と申しましたが実際はそれほどの演奏活動は行っていません。
専ら家にあるグランドピアノを好きな時に弾いて、ひとりで楽しんでいる程度です。
幸いなことに私は生活には困らない家庭環境に生まれ育ち、ピアノには幼い頃から自然と慣れ親しんできました。
家にはそれなりの大きさの防音室があり、おかげで周囲や時間帯を気にせず弾きたい時に好きなだけ弾いて育ちました。
一応、先生について十数年間はピアノのレッスンも受けてきました。
別にプロになるつもりもなく、せっかくだからもう少しピアノについて学ぼうと音大にも通いました。
私に教えてくれた教授はユニークな方で、型通りのレッスンはせずに私に好きなように弾かせて、必要であればアドバイスしてくださいました。
そのおかげで窮屈に感じることもなく、楽しみながらピアノを学ぶことができました。
音大卒業後は特に音楽関係の仕事には就かずに、クラブのホステスを数か月していました。
箱入り娘だった私は世間のことをまったく知らず、このままでは人間として偏ってしまうと考えたのです。
クラブのような所で働けば、少しは世の中のこともわかるかもしれないと思いました。
でも実際は酔ったお客様とたわいもない話をするばかりで、目的達成には程遠いものでした。
それでもひとつだけ、クラブに勤めたからこそのいいこともありました。
CMSLフィルハーモニック・オーケストラの理事長で、音楽事務所CMSLの代表でもあるセバスチャン・ガロと出会ったのは、そのクラブに私が勤務していた時のことでした。
お客様としてクラブを訪れたガロ理事長のお相手を私が受け持つことになり、そこで様々な事柄についてお話ししました。
そして自然な流れで話題は音楽に移り、私のこれまでのピアノ経験についてもお話ししました。
ひとしきり話すとガロ理事長は私の腕をつかみ、「指を一本ずつ動かしてみてくれないか」と言ってきました。
その時ガロ理事長は自分の素性について一切明かさなかったので、私は内心「気持ちわるい」と感じながらも、言われた通りに指を順番に動かしてみせました。
その間、理事長は私の指の動きは見ようとせず、ひたすら指を動かした時の腕の筋肉の動きをじっと見ていました。
私は尚更に「気持ちわるい」と理事長の手を振り払って、コップに注いだ水を飲み干しました。
こうして意味不明のやり取りが終わると、連絡先の交換だけして理事長は帰って行きました。
それから数日後、理事長からメールがあり「コンサートでチャイコフスキーのピアノコンチェルトを弾いて欲しい」と依頼されました。
私は即座に「無理です」と返信しました。
ただでさえ難しい曲をアマチュア同然の私が、しかもコンサートで聴衆を前に演奏することなど考えられないとお伝えしました。
それでもガロ理事長は「大丈夫、本番当日までまだ2か月はあるから、それまでに仕上げてくれればいい」と勝手に言い放って、私のコンサート出演が決まってしまいました。
そこから家にあったこの曲のDVDとCDを片っ端から観て聴いて、一日数時間、時間がある限りピアノに向かう日々が続きました。
あとから知った話ですが、私がまだ中学生だった頃にこの曲を弾く機会があって、そのコンサートのジュニアオーケストラの一員だったトワさんと共演していたようです。
あちらはそれを覚えていて「お久しぶりです」と言ってきましたが、私はピアニストの立場上、まだ目立たなかったトワさんを知ることもなく最初の共演は終わりました。
そんなこともあり、これも何かの縁かと思い理事長の依頼を受けることにしました。
当時はまだ腕っ節が弱く、満足いく演奏ができませんでしたが、あれから数年が過ぎ身体的にも成長して、それなりの演奏はできるようになったかと思います。
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トワさんと私はリハーサルでも何度もお互いの意思を確認し合いながら、ていねいに演奏の全体像を創り上げていきました。
その成果をお楽しみいただけたらうれしいです。
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23 第3楽章 [2023]
P.I.Tchaikovsky:Piano Concerto No.1 in B-flat minor, Op.23
III. Allegro con fuoco [8:15]
Tchaikovsky-PianoConcerto-No1-3rd-2023.mp3
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▼オーケストラを構成する楽団員たち