VCから出資を受けたスタートアップは、そうでない企業に比べて、上場直後に不正で訴えられる確率が2倍以上高い。しかもその差は、この10年で際立って大きくなっている。そして不正を最もよく予測するのは、創業者がどんな人物かではなく、その会社のガバナンスがどう設計されているかでした。
今回は、トロント大学ロットマンスクールの研究チームがまとめた論文「Venture Fraud」を題材にしています。米国のVC出資先で起きた654件の不正案件を集めた、初の網羅的なデータセットです。何が不正を予測するのか。創業者が握るボード、複雑になりすぎたキャップテーブル、そして資金調達市場の過熱。さらに、不正が発覚した創業者はその後どうなったのか──ここで出てくる結論は、かなり直感に反します。後半では、「不正」という一語では括りきれない濃淡の問題、そして日本で進むVC向け指針の改訂をめぐって、規律をどこに設計すべきかという議論をしています。
▼ 今回のトピック
・米国のVC出資先で起きた654件の不正案件を集めた、初の網羅的データセット
・累計1,000万ドル以上を調達した企業のうち、不正への関与が判明したのは1.75%。およそ57社に1社
・ある年に不正を実行中の企業の割合は、2003年の0.10%から2021年の0.63%へ。同じ期間、上場企業とPE出資先では低下している
・IPO後2年以内の証券集団訴訟で比べると、VC出資先はおよそ10社に1社、非VC出資先は20社に1社
・創業者支配のボードは、VC支配・折半のボードに比べて不正の確率が2倍
・投資家の持分(普通株換算)が10%高いと、不正の確率は平均比で19.3%下がる
・相関か因果か──「VCが入るから不正が起きる」のか、「不正を起こしうる人がVCの資金を狙って来る」のか
・持分では測れない影響力。組織内のカリスマ性とパワーバランスという論点
・市場が過熱すると、投資家はバリュエーションだけでなくガバナンス上の権利を差し出して枠を取りに行く──「内生的な創業者の塹壕化」
・市場全体のバリュエーション倍率は、不正率に2〜3年先行して動いている
・不正が発覚した創業者は、その後も新しい会社を立ち上げ、VCから資金を集めている。6年間の起業数は対照群とほぼ差がない
・大きく報道された案件ほど、その後の起業がむしろ多いという逆説
・元の投資家からの再出資は28%、対照群では41%。静かに降りる投資家と、踏み込む新しい投資家
・セラノス、WeWork、そしてライブドア──「不正」という一語では括れない濃淡と、量刑の不均衡
・投資家が口を出すことと、「起業家フレンドリー」であることのあいだの駆け引き
・VC向け指針の改訂と外部チェックの導入──プロセスを重くすると、真面目にやる側が不利にならないか
・57社のうち56社はまともにやっている。規律とインセンティブを、どこに設計すべきか
▼ 参考情報
8/24【解説セミナー】2026年上半期 Japan Startup Finance- スタートアップ資金調達動向 -
https://jp.ub-speeda.com/seminar/20260824_cfcd/
スピーダスタートアップ情報リサーチ
https://jp.ub-speeda.com/solutions/startup/
Alexander Dyck, Freda Fang, Camille Hebert, Ting Xu「Venture Fraud」NBER Working Paper No. 34868(2026年2月公表/同年6月改訂、査読前のワーキングペーパー)
https://www.nber.org/papers/w34868
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