オープニングソング「水魚の交わり(魚水情)」
エンディングソング「バイオバイオバイオ(遺伝子の舟)」
作詞作曲 楠元純一郎
編曲 山之内馨
<われらの会社法21(競業取引・利益相反取引)>
ラジオ収録20201122
講師 楠元純一郎(法学者)
録音師 レオー(美術家)
ゲスト 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)
jialin(大学院博士課程)
広義の利益相反取引=競業取引と狭義の利益相反取引
会社356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 1項1号(競業取引) 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。(競業取引)→会社と競争してはダメ。→取締役はなんでこんなことができるのか?→会社の機密情報(ex.製品情報、ノウハウ、顧客情報(販売ルート)、仕入れルート(よりいい物をより安く)を知っているがゆえにそれを利用して自己または第三者の利益を図り、会社に損害を与えるおそれがあるから。
二 1項2号(利益相反取引の直接取引) 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。(狭義の利益相反取引(自己取引)の直接取引)→取締役が、①自分の安い物を会社に公正な価格よりも高く売りつける、②会社の高い物を安く買う。取締役はなんでこんなことができるのか?→自分が自分と取引できるから(自己取引)。つまり、取締役は取引の両側に立つことができるから。
会社 ← 売買契約(取引) → 取締役(個人)
(取締役(代表))
双方代理・自己契約→「あちらを立てれば、こちらが立たず」→会社の利益を犠牲にして、個人の利益を優先しがち→構造的な利益相反
三 1項3号(利益相反取引の間接取引) 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。(狭義の利益相反取引の間接取引)
→会社に第三者と取引をさせる→間接取引
会社 ←ーーー保証契約(取引)ーーー→ 第三者
(取締役(代表) (保証人)
↓
↓借金
↓
取締役(個人)
会社365条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
<<競業取引>>
パンの製造販売会社X社の取締役Y→X社の機密情報を知りうる立場→①レシピ(材料の情報を含めた美味しく作る方法=秘訣・ノウハウ)、②仕入れルート(安くて品質のよいもの=コスパのいいもの)、③販売ルート(顧客名簿を含む)→この機密情報を不正流用して、自分で同業の行為を行うとどうなる?→X社の売上げ、利益が減る可能性あり→競業の規制
「自己または第三者のために」
→自己または第三者の「名で」?→法律効果の帰属
→自己または第三者の「計算で」(通説)→経済効果の帰属
「事業の部類に属する取引」→会社が現に行なっている事業に限られず、近い将来に行う予定のある事業も含む(東京地判昭56・3・26判時1015・27)
※ 事業機会の奪取 との関係 → 忠実義務違反
承認手続
取締役会非設置会社→取引に関する重要な事実を株主総会に開示→株主総会の承認
取締役会設置会社→取引に関する重要な事実を取締役会に開示→取締役会の承認
違反の効果
会社に対する損害賠償責任(会社423条1項)→任務懈怠責任
競業規制違反によって得た利益→会社の損害と推定(会社423条2項)
→損害額の立証が困難だから(競業規制違反のペナルティー)
取締役会に重要事実を開示し、その承認を受けた場合でも、任務懈怠があれば損害賠償を免れない→この場合の任務懈怠は忠実義務違反(承認を受けていない、ノウハウの流用、仕入先・顧客情報の流用等があった場合)
競業取引に類する行為
従業員の引き抜き→それ自体は競業取引ではない→忠実義務違反(東京高判平元・10・26金判835・23)
営業機会の奪取→忠実義務違反
<<利益相反取引(直接取引と間接取引)>>
会社356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
1 1号 競業取引
2 2号 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。(直接取引)
3 3号 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。(間接取引)
狭義の利益相反取引→取締役と会社の利益が対立するそれらの取引→取締役が取引の両側に立つ→取締役に有利で会社に不利な条件での取引の可能性→構造的な利益相反
<直接取引>
→取締役が会社の財産を安く譲り受けたり、自己の財産を会社に高く売りつけたり、会社から金銭の貸付を受けたりするような取引
「自己または第三者のために」
→「自己または第三者の名で」(名義説)
→「自己または第三者の計算で」(計算説)←会社428条の解釈から計算説が妥当
会社428条 第三百五十六条第一項第二号(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。→自己のために直接自己取引をした場合→無過失責任
2 前三条の規定は、前項の責任については、適用しない。
直接取引の該当要件→「取締役が会社と取引する」
① 取締役個人が会社と取引する場合
② 取締役が相手方を代理・代表して会社と取引する場合
③ 取締役が相手方の株式を100%保有している場合のように相手方を取締役と同視できる場合→支配の割合の緩和→間接取引の構成
<間接取引>
→会社と第三者との間の取引であって、取締役に有利で会社に不利な取引
→取締役個人の債務につき会社が債務引受け、保証、連帯保証を行う行為等。
承認手続
→利益相反取締役→取引に関する事実を開示→承認を受けなければならない
→取締役会非設置会社→株主総会
→取締役会設置会社→取締役会
承認を受けない取引の効力
→原則無効→取引の安全→善意の第三者を保護する必要→会社は第三者の悪意(取締役会の承認がないことを知っていたこと)を主張・立証して初めてその無効を第三者に主張しうる(相対無効説)。悪意に重過失も含まれると解せられる。
利益相反取引と取締役の責任
任務懈怠責任の特則
利益相反取引(直接取引・間接取引)→会社に損害→それに関与した取締役に任務懈怠があったと推定(会社423条3項)←この場合、取締役会の承認を得たかどうかは問わない
任務懈怠が推定される者
① 利益相反取締役
② 取引を決定した取締役
③ 取締役会の承認決議に賛成した取締役
取締役会の承認を受けていた場合
→①②の取締役が利益相反行為を行なったこと
取締役会の承認を受けていなかった場合
→①②の取締役が利益相反取引を行なっていたことに加え、その承認を受けなかったこと自体が法令違反として任務懈怠責任を問われる。
取締役会の承認決議に賛成した取締役→①②の取締役の任務懈怠について
監視義務違反を問われる。
各取締役→任務懈怠について責めに帰すべき事由(過失)がないことを
証明すれば免責。
→しかし→自己のために直接取引を行なった取締役
→無過失責任(会社428条1項)
任務懈怠と過失の関係
会社423条
第十一節 役員等の損害賠償責任
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったとき(任務懈怠→会社に主張立証責任)は、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 2項 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。(競業取引)
3 3項 第三百五十六条第一項第二号(直接取引)又は第三号(間接取引)(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。→任務懈怠がなかったことを立証すれば免責されるのか?
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。
会社428条
第四百二十八条 第三百五十六条第一項第二号(直接取引)(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない(無過失責任)。
2 前三条の規定は、前項の責任については、適用しない。
任務懈怠と過失の関係
会社法428条1項によって無過失責任を負う取締役(自己のために直接取引をした取締役)は、会社法423条3項の反対解釈により、任務懈怠がなかったことを立証すれば責任を免れるのか?
通説→任務懈怠と過失を同視して、無過失の立証が認められていない取締役には任務懈怠の反証も認められない。
有力説→利益相反取引→公正な条件で取引を行わなかったことが任務懈怠→不公正な条件での取引を防止するという注意義務の違反が過失→自己のために直接取引を行なった取締役も取引条件が公正であったことを立証すれば、任務懈怠がなかったことになり、責任を免れる。
損害額
任務懈怠と損害との間の相当因果関係が必要
取締役会の承認を受けずに利益相反を行なった取締役→もし取締役会にかけていれば承認が得られていたであろう場合→取締役会の承認を受けなかったという法令違反と損害との因果関係は否定。
→でも、利益相反取引を行なったという任務懈怠と損害との因果関係は否定されない。