ライオンは全ての草食獣を捕まえ、他の肉食獣に邪魔させないために、鋭い牙と強靭な筋力を獲得しました。動物とは、生存環境で起こる生命維持に矛盾した事態を解消するため、「動く」ことを選択した生物であり、種々の動きに伴って身体に掛かる負荷を克服しながら自己を強化して、その状況に適応した個体のみが生き残ることで、様々な種へと進化していきます。では、我らサピエンスは?
今から135億年前に物質とエネルギーが誕生し、やがて原子と分子が現れ、45億年前に地球が形成、38億年前に有機体が出現しました。その後数十億年の時を経て600万年前、DNAの98.4%が等しいと言われるヒトとチンパンジーが分岐し、250万年前にアフリカでホモ属が進化して最初の石器を使用、200万年前にはアフリカ大陸からユーラシア大陸へ拡がって、複数の異なる人類種へ進化していったというのが、古人類学で認識されているサピエンス誕生以前の人類の歩みです。
現在までのところ、アウストラロピテクスを始め、ホモ・ソロエンシス、ホモ・フローレシエンシス、ホモ・ルドルフェンシス、ホモ・エルガステル、ホモ・エレクトス等々、20種ほどの人類が確認されています。
環境や身体上の要因で直立二足歩行をするようになった人類は、やがて空いた手で道具を使うようになり、旧石器時代が始まります。更に、これと並行して言語による情報交換が、群れの中の個体間で行われるようになりました。こうした行動の選択は神経細胞を成長させ、脳を巨大にし、学習能力と社会構造を発展させることになったため、種としての大躍進を果たしたように見えます。ところが、実のところ道具の使用開始から200万年間、この特技は大した強みにならず、人類はサバンナの辺境で大型肉食獣におびえて生きる、取るに足らない負け組の種であり続けたのでした。
気候変動による森林の減少で樹上生活ができなくなったせいか、人類はエネルギー効率の悪い直立二足歩行を強いられますが、道具と言語の使用で肥大化したその脳も燃費の悪い器官で、過剰に栄養を必要としました。現代人の脳は体重の2~3%を占めるだけですが、体の消費エネルギーの25%を使います。更に、二足歩行は女性の産道を狭めたため、未成熟な子を出産せざるを得なくなり、養育に時間がかかるようになりました。偉大なはずの石器も、肉食獣が食い散らかした動物の死骸の骨を割って骨髄液を啜るために仕方なく使用していたものであり、雄々しい狩猟用の武器などではありませんでした。
しかし、この逆境こそが道具と言語と養育のための社会的連帯を発展させ、やがて人類を百獣の王へと昇らせるのです。