「俺も、正直にならなくっちゃな……」博はそう言って、つないだ手に力をこめた。「中学生の頃、親の転勤で博多に住むことになって、自分なりに博多に溶け込もうと努力してきたんだ」「必死だったよ。過ごしてきた年月は、どうあがいても、追いつくことはできないしな。今思えば、覆せない差を、博多の知識っていう鎧をまとうことで、克服しようとしていたんだろうな」「そうやったとたいね……」つたない博多弁で、友人たちに馴染んでいたように見えていた博。心の内の葛藤を、かなめはどれだけわかってあげていただろうか。「かなめが手を振りほどいたのも、何か理由があるんだろうって、薄々は気付いていたんだ。だけど、それを深く考えると、自分の六年間が否定されてしまう気がして……。だから逆に、かなめも含めて博多すべてを否定して、嫌悪することで、心の均衡を保とうとしたんだと思う」そうして博の、博多の知識は人一倍持っているのに「博多嫌い」という、複雑な性格ができあがってしまったのだろう。九年前で止まったままだった時計が、動き出した気がした。