ラジオ収録20220614
中国語翻訳・朗読 レオー(中国語講師・中国の小学校教諭)
読解者・朗読 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)
読解者 福留邦浩(国際関係学者)楠元純一郎(法学者)
中国語朗読 刘耀鸿
聴講 张晓良 張智航 劉凱戈
その学期も終りにちかづいたころお隣へあらたに人がこしてきた。その家とは裏の畑を間にほんの杉垣ひとへをへだててるばかりで自由に往き来ができる。私が裏へいつてこつそり様子をみてたら垣根のところへちやうど私ぐらゐのお嬢さんがでてきたが、ついとむかふへかくれて杉のすきまからそつとこちらを窺つてるらしかつた。
<ついと→突然。窺って→窺う→そっと覗いて見る、そっと様子を見る>
那个学期快结束的时候,搬来了一户新邻居。我家和她家只隔着一块后院的田地和几丛杉树树篱,串起门来非常方便。一次,我在后院悄悄观望邻居家的样子,恰巧一个和我差不多年纪的小女孩出现在树篱的另一边,见到我的身影立刻躲起来,似乎是透过杉树的缝隙偷偷朝我这边看。
暫くしてお嬢さんはまた出てきてちらりとひとを見たので私もちらりと見て、そして両方ともすましてよそをむいた。そんなことを何遍もやつてるうちに私はお嬢さんがほつそりとしてどこか病身らしいのをみてなんとなく気にいつてしまつた。
<よそをむいた→よそを向く→目を逸らす。何遍も→何回も。どこか病身らしいのをみてなんとなく気に入ってしまう→気の合った者や境遇の似通った者が相手を好ましく感じる。>
过了一会儿,那小姑娘走了出来,飞快地看了我一眼,我也飞快地看她一眼,两个人又同时把头转到另一边。就这样反复了很多次,我发现小姑娘瘦瘦弱弱,有些病恹恹的,不由得喜欢上了她。
そのつぎに眼と眼があつたときに彼方は心もち笑つてみせた。で、私もちよいと笑つた。彼方は顔をそむけるやうにしてくるりとかた足で廻つた。こちらもくるりと廻る。
<彼方(あちら)→相手方。心もち→少し(副詞)。ちょいと→ちょっと、わずかに。顔を背(そむ)ける→顔を横に向ける、視線を逸らす。>
下一次目光相交的时候,对方绽开了一个舒心的微笑,于是我也笑了笑。她偏过脸去,单脚着地转了个圈,我也跟着转了一圈。
むかふがぴよんととんだ。こちらもぴよんととぶ。ぴよんと跳ねればぴよんと跳ねる。そんなにしてぴよんぴよん跳ねあつてるうちにいつか私は巴旦杏はたんきやうの蔭を、お嬢さんは垣根のそばをはなれてお互に話のできるくらゐ近よつてたが、そのとき「お嬢様ごはんでございますよ」とよばれたので「はい」と返事をしてさつさと駈けてつてしまつた。
<巴旦杏(はたんきょう)→スモモの一品種。駈けて→走って>
她轻轻跳了起来,我也跟着轻轻地跳。我们就这样跳啊跳。跳着跳着,不知什么时候我从巴旦杏的树荫里跳了出来,小女孩也离开了树篱边,我们离得很近,已经可以相互讲话了。可这时,却传来她家人的声音:“小姐,吃饭了!”她回答一声“好”,便急忙跑掉了。
私も残りをしく家へ帰り急いで食事をすませてまたいつてみたらお嬢さんはもう先にきて待つてたらしく「遊びませう」といつて人なつつこくよつてきた。私はお馴染になるまでにはもう五六遍も跳ねるつもりでゐたのが案に相違して顔が赤くなつたけれど「ええ」といつてそばへいつた。
<残り惜しく→名残惜しい→心が引かれて、別れるのがつらい。人懐っこい→人に対して親しみやすい、すぐに打ち解けて仲良くなりやすい。お馴染み(おなじみ)→親しい間柄>
我不甘心,回到家里匆忙扒完饭又来到后院,小女孩已经在那里等着了。 “我们一起玩吧!”她说着走过来,一副随和的样子。我原本以为还要再跳个五六遍才能和她混熟,没想到反而是我涨红了脸,但还是说:“嗯!”
さきはもうはにかむけしきもなくはきはきした言葉つきで「あなたいくつ」ときいた。「九つ」と答へる。と「あたしも九つ」といつてちよつと笑つて「だけどお正月生れだから年づよなのよ」とませたことをいふ。
<はにかむけしき→恥ずかしがる様子、そぶり。年づよ(としづよ→年強)→その年の前半の生まれ←→年弱(としよわ)。ませた→年齢の割に大人びている>
我走到她旁边,她已经全然没有了扭捏的样子,清楚地问我:“你多大了?”“九岁。”我说。 “我也九岁。”她笑了笑,又说,“不过我是正月里生的,生日大。”她说这话的时候,像个小大人似的。
わたし「あなたの名は」「けい」とはつきりいつた。型のごとく名のりあつて初対面の挨拶がすむとおけいちやんは「あたしもうぢき学校へあがるからおんなじ学校へいきませう」といつたので嬉しくて自分の学校のいいこと、修身のお話の面白いこと、受持ちの先生のやさしいことなぞ数へあげ小さな智嚢をしぼつておけいちやんをおなじ学校へひきつけようとした。
<数へあげ→かぞえあげ。智嚢(ちのう)→知恵の蓄え、知恵を絞る>
我问: “你叫什么?” “阿蕙。”她清楚地回答。我们相互报上姓名,结束了初次见面的问候。阿蕙说 “我马上也要上学了,我们去同一所学校吧!”我高兴地告诉她自己念的那所学校有多好,告诉她品德课上老师讲的故事很有意思,以及班主任有多么和善。倾尽小小的心思,希望阿蕙愿意和我上同一所学校。
おけいちやんは勝ち気な人なれた子で、ぱつちりした眼とまつ黒な髪をもつてゐた。蒼白い滑な頬には美しい血の色がすいてみえた。
<勝気な→負けず嫌いの、強い気持ちをもって行動する気質。人なれた→人馴れた。ぱっちり→目を大きく見開いた。滑(なめらか)な→なめらかで、すべすべした。すいて見えた→透き通って見えた>
阿蕙是个好胜、不怯生的孩子,眼睛大大的,头发乌黑。苍白而光滑的脸颊上浮出美丽的血色。
さうしてその気性とませた頭をもつて意気地なしのぼんやりな年弱に対してとかく女王のやうにふるまふ気味があつたが、私は満足してあらたに君臨したこの女王の頤使いしに身をまかせようと思つた。
<頤使(いし)→人を見下して、思いのままに指図して、顎で使うこと。高慢な態度で人を使うこと>
她性格活泼,又有些早熟,对我这个傻呵呵的生日小的孩子来说,简直是女王一般的存在。我全心全意地听这位新来的女王使唤,并为此心满意足。