我らの文学129 中勘助『銀の匙』56(前編45②)>
ラジオ収録20220906
「レオンラジオ日の出」テーマ曲 作詞作曲 楠元純一郎 OP「水魚の交わり」、INTER1「日の出の唄」、INTER2「大医精誠」、ED 「遺伝子の舟」
司会 楠元純一郎
中国語翻訳・朗読 レオー(中国語講師・中国大慶の小学校教諭)
中国語翻訳 レオー
読解者・朗読 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)
読解者 福留邦浩(国際関係学者)
中国語朗読 刘耀鸿
聴講 张晓良 張智航 劉凱戈
あくる朝なんだか顔をあはすのが怖いやうな、あはせないのも心配なやうな気もちで誰より先に学校へゆき自分の席にしよんぼり坐つて昨日のこと、これまでのことなど思ひだしてるうちにひとりふたりとやつてきてだんだん教場が賑になつた。
<あくる朝→翌朝、次の日の朝。顔を合わす→対面すること、会うこと。しょんぼり→元気がなく、寂しそうな様。教場(きょうじょう)。賑(にぎ)やか>
到了第二天早上,我既害怕碰到阿蕙,又担心见不到她,第一个到了学校,呆坐在自己的座位上,回想昨天到今天发生的这一切。渐渐地,同学们三三两两地走进教室,屋子里热闹起来。
しかしお蕙ちやんの姿はみえない。もしか怒つて休むのぢやないかしら、だがまだ来る時刻ぢやないからわからない などともどかしがつてるうちにかなり遅い組のちよつぺいがきていよいよその時刻になつた。
<もどかしがってる→もどかしい→思うようにならず焦(じれ)ったい。>
可是始终不见阿蕙的身影。她该不会是生气不来学校了吧?不过还没到她平时进教室的时间,一切都不一定。我烦躁不安地看见总是晚来的长呸也走进班里,终于到了阿蕙平常到校的时间。
私はゐたたまらずに門のところへいつて扉の陰からうかがつてたらやがて坂のうへから包みをかかへてくるのがみえたのでやつとひとまづ胸をなでおろした。
<いたたまらず→いたたまらない→これ以上、我慢できない、じっとしていられない。うかっがて→窺う→そっと密かに様子を見る。ひとまず→とりあえず、さしあたり。胸をなでおろす→ほっとする、安心する。>
我再也受不了了,干脆跑到校门口,躲在门后偷偷往外看。等了一会儿,终于看到阿蕙抱着书包爬上坡来,我才总算放心。
さきはそれとは知らず門をはひりかけたのをこちらもなにげなく扉のかげから出てふと顔をみあはしたところちよいときまりのわるさうな笑ひをうかべたなりなんにもいはずにはひつてしまつた。
<きまりのわるそうな→きまりが悪い→恥ずかしい、面目がない、ばつが悪い>
她走进校门时,我若无其事地从门后走出来,和她打了个照面。她并不知道我 在那里,尴尬地笑了笑,什么也没说就走了。
大丈夫だ。そんなに怒つてもゐないやうだ。そのもどかしい一日をお蕙ちやんは元気よくお友達と遊んでゐた。
<もどかしい→思うようにならない、苛立(いらだ)たしい、歯痒い>
没事了。看来她也没有很生气。这一整天,我都心浮气躁,阿蕙却和朋友开开心心地玩耍。
帰つてから私が机にむかひながら 今日は裏へ出てみようかしら、よさうかしら などと思つてるときに玄関の格子がしづかにあいて「ごめんあそばせ」と小さな声でいつた。
<よそうかしら→よす→止す→やめる→やめようかしら→やめようかな>
回家后,我坐在桌前,正想着今天到底还要不要去后院,屋子的格子大门被悄悄拉开,一串声音轻轻传来: “对不起,打搅了。”
私はすぐさまとびだして衝立のうしろから「お蕙ちやん」と呼びかけながら式台に立つた。
<すぐさま→すぐに。衝立(ついたて)→間仕切り、partition screen。式台(しきだい)→玄関の土間と床の段差が大きい場合に設置される板の台>
我立刻跑到门口,在屏风后面喊: “阿蕙!”才刚喊出她的名字,我已经站在门前的低台上了。
そのときお蕙ちやんははじめての訪問のせゐかすこしはにかみながらもいつものさえざえしい笑顔をみせたので今まで背負つてた重荷がさらりと一時におりた。私はこの珍客を玄関のわきの自習室へ招きいれた。
<はにかみながら→はにかむ→恥ずかしがる。さえざえしい→冴え冴えしい→澄み切って爽(さわ)やかな。さらりと→あっさりと、思い切りよく、こだわりなく。一時(いちどき)に→いっぺんに、一気に、同時に。珍客(ちんきゃく)→めったに来ない、めずらしい客>
也许是因为第一次来我家,阿蕙显得有些害羞。不过在我看到她一如往常的纯真笑容时,满脑子的沉重思绪立刻一扫而光。我把这位稀客迎进大门旁边的自习室。