2023年 10月 15日 三位一体第19主日
説教題:彼女たちを助けてあげてください
聖書:フィリピの信徒への手紙 4:2−3、サムエル記 上 20:11−15、ルカによる福音書 5:27−32、詩編 15
説教者:稲葉基嗣
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【説教要旨】
パウロはエボディアとシンケティというふたりの女性の名前を書き、「彼女たちを助けてあげてください」(4:3)とフィリピ教会の人びとに依頼します。一見、福音のために毎日奮闘している彼女たちが助けを必要としていることとは、フィリピでキリストを信じて生きることであり、教会の指導者として人びとを励ますことのように思えます。
でも、パウロは別のことを考えて、フィリピ教会の人びとに依頼しています。このふたりの女性たちに向けられた、「主にあって同じ思いを抱きなさい」(4:2)という言葉が、このことを考える上での大きな手がかりです。
全く同じフレーズをパウロは2章2節で用いているため、キリストを模範として、お互いにへりくだり、相手を自分よりも優れた者と思うことをもう一度思い起こして欲しいと願ったのでしょう。このことをエボディアとシンケティに思い起こさせる必要があったということは、このふたりの間に対立やいさかいがあったからなのでしょう。
ふたりの女性たちの対立を解決しようと試みたパウロがとった方法は、いくつかの点で、現代社会に生きるわたしたちの方法とは違っていました。もしも現代社会ならば、何か大きな問題があった場合、実名入りで告発します。けれど、パウロは批判や非難をするために、彼女たちの名前を挙げませんでした。寧ろ、パウロは彼女たちの友として、また、親しい同労者として、このふたりが対立していることを取り扱い、ふたりの間に和解を求めています。
パウロが和解を求める方法はとても現実的です。ふたりだけで問題が簡単に解決できるとは思っていません。だから、ふたりがまた手を取り合って、キリストのために生きることができるように、フィリピ教会の指導者としてふさわしく、このふたりが良い関係を築けるよう、どうか助けてあげてくださいと、フィリピ教会の人びとにお願いしました。
現代に生きるわたしたちは、パウロのこの姿勢にしっかりと学ぶ必要があります。現代に生きるわたしたちの感覚ならば、対立するふたりがいるならば、どちらの味方につくかを迫られ、ひとつの群れがふたつのグループに別れ、ますます対立が深まってしまいます。もしくは、そんな対立など他人事です。最初から諦めてしまいます。
けれど、エボディアとシンティケの対立は、ふたりだけの問題ではありません。彼女たちが対立したままならば、憎しみがどんどん膨れ上がってしまいます。だから、パウロは「彼女たちを助けてあげてください」(4:3)と呼びかけました。彼女たちだけの力では解決できなくても、誰かが平和の手を差し伸べるならば、きっと解決へと導かれると、パウロは信じています。
和解を求めてわたしたちが間に立つところに、キリストが一緒に立ってくださるはずです。