ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。
このページでは、ポッドキャスト「会社と経営者を強くする 実践ウェブ活用ポッドキャスト」でお話しした内容をもとに、「Webの最新情報収集術 ― How(手法)の前に考えるべきWhy(なぜ)とWhat(何を)」というテーマでお伝えします。
「最新トレンドについていけていない気がする」「新しいツールや手法をどこまで追えばいいのか分からない」「上から“最近のデジタルはどうなっている”と聞かれて困る」といったモヤモヤがある方に、少し気持ちが楽になりつつ、やるべきことが見えてくる内容になればと思います。
結論・まとめ
「最新トレンドについていけていない」という悩みには、周りから言われるケースと自分で焦るケースがある。ただし、どちらも根っこは「新しいものに対応できていない不安」であり、落ち着いて分解すれば整理できる。ツールや手法(How)は、2024年秋時点ではAIを除けば「まったく新しいもの」が次々出ている状況ではなく、運用スキルと考える力の方が重要になってきている。本当に押さえるべきは、Why(なぜ)とWhat(何を)。Howは外部パートナーと一緒に考えれば良い。トレンドをつかむ一番の近道は、ネット上の一般論よりも、自社のお客さんの変化を観察し、社内外の信頼できる人たちと情報交換すること。コンサルタントや制作会社には永続的に依存するのではなく、「いずれ自社で回せる状態」に向けたパートナーとして関わってもらうのがおすすめ。AIツールだけは、業務効率化という意味で、代表的なものを実際に触ってみる価値が高い。自社のお客さんの変化を書き出してみる社内の営業やカスタマーサポートと一度、時間を取って話をしてみる信頼できそうな専門家候補を探し、「うちの状況だとどう考えるべきか」とラフに相談してみるAIツールを1つ選び、1ヶ月だけでも本気で使ってみる「最新トレンドについていけていない」2つのよくあるパターン
まず、現場でよく聞く「最新情報に追いつけていない」という悩みには、大きく分けて2つの出どころがあります。
パターン1:周り(特に上の立場)から言われて焦るケース
1つ目は、月次報告や定例会議などで、上の立場の人からこう聞かれるパターンです。
「最近は◯◯が効果的って聞くけど、うちはどうしているの?」「今、世の中では××が流行っているらしいけど、うちでは取り入れているの?」「うちは時代遅れなのでは」「もっと新しいやり方を取り入れないといけないのでは」といった空気になり、現場としては落ち着かない気持ちになることが多いと思います。
経営者側から見ると、これはある意味仕方のないところです。会社として利益を出し続け、従業員やそのご家族の生活を守るためには、「世の中の変化に置いていかれていないか」「もっと良いやり方があるのではないか」が常に頭から離れません。私自身も経営をしているので、その不安はよく分かります。
一方で、現場からすると「実情を分かっていないのに、簡単に言わないでほしい」と感じる場面もあるでしょう。本来であれば、そこで冷静にこう返せるのが理想です。
「その方法はうちの顧客層や商材だと、この理由から今は優先度が高くありません」「必要性は感じていますが、先に取り組むべき施策があるので、この順番で進めています」しかし、そのためには「なぜやらないのか」「今、何を優先しているのか」が自分たちの中で整理できている必要があります。ここが整理されていないと、「とにかく新しいことをやっていない自分たちは良くないのでは」という漠然とした不安だけが残ってしまいます。
パターン2:自分で情報収集していて「全部やれていない」と感じるケース
2つ目は、日頃からWebの情報や雑誌、セミナー、ソーシャルメディアなどを追いかけている方に多いパターンです。
「今度は◯◯マーケティングか、〇〇広告か……新しい言葉が次々出てくる」「どれもやった方が良さそうに見えるけれど、自社では何一つ手をつけられていない」「やらなきゃと思うけれど、何から始めれば良いのか分からない」頭の中では「変化に追いつかないといけない」と分かっていても、日常の業務は目の前でパンパンに詰まっている。新しい取り組みの一歩目を踏み出せず、自己評価が下がってしまう。このような状況です。
この2つのパターンは、出どころこそ違いますが、根っこは共通しています。どちらも「新しいものにちゃんと対応できていないのではないか」という不安から来ています。
ただし、ここから先の「考え方」と「対処の仕方」は、少し分けて考えた方が整理しやすくなります。
本当に「新しい手法やツール」はどこまで追う必要があるのか
ここで、20年以上この業界にいる立場からの実感をお伝えします。特に2024年秋時点で感じているのは、
「AI(人工知能)を除くと、『まったく新しい概念の手法やツール』は、以前ほど次々と出てきているわけではない」
新しい広告手法新しいアクセス解析ツール新しい検索エンジン対策(SEO:Search Engine Optimization)といったものが、かなり勢いよく登場している感覚がありました。
ところが最近は、「今まで存在していた考え方を、より使いやすくしたツール」や「既存の仕組みを少し拡張したサービス」が中心で、根本からゲームチェンジするような新しいツールは、それほど頻繁には出ていません。
むしろ、ツール側には別の大きな流れがあります。それはプライバシー保護の強化です。
クッキー(Cookie)への同意が必須になってきたブラウザやOSがトラッキング(追跡)の制限を強めているこうした流れの中で、従来のように細かい個人単位のデータを集めることは難しくなっています。少なくとも現状では、「昔のように何でも細かく追える状態」に戻るというより、プライバシーに配慮した別の仕組みに置き換わっていく流れだと考えた方が自然です。
このため、ツールが自動で取得できるデータの粒度(どこまで細かく分かるか)は下がりつつあり、「ツールが教えてくれる答えを読む」だけでなく、自分たちで考えて解釈する力がより重要になっています。
新しいツールを入れれば、魔法のように成果が出る「最新ツールを使っている会社」こそが強いというイメージは、かなり薄くなってきていると考えても良いと思います。
もちろん、新しいツールがまったく意味がないわけではありません。ただ、「ツールを追いかけ続けること」が目的になってしまうと、本来やるべきことから離れてしまうのが今の時代です。
「◯◯マーケティングが今熱い」という記事との付き合い方
もう1つ、気をつけたいのが「◯◯マーケティング」「△△戦略」など、名前のついた新しい手法がメディアで取り上げられるときの話です。
実務の現場から見ると、こうしたものの多くは戦略PR(企業やサービスの認知・好意形成を目的とした計画的な広報活動)として世の中に出てきています。
「今、◯◯マーケティングが熱い」「そのやり方を効率的に実現するには、このツールが便利」「そのツールを提供しているのは、この会社。その担当者に話を聞きました」という流れです。だからと言って、その手法やツールがダメだということではありません。自社に合うものであれば、積極的に活用すべきです。
ただ、「メディアで大きく取り上げられている=世の中全体の本質的なトレンド」とは限りません。ここを混同しないことが大事です。
どのメディアが言っているかだけでなく、誰が書いているのかその人が実務経験を持っているのか、他の発信内容との一貫性はあるかといった「発信者ベース」での信頼性を見る方が、結果的に役に立つ情報に出会いやすいと感じています。
押さえるべきは「Why」と「What」:ゴールデンサークルの考え方
ここで、よくご紹介するフレームワークに、サイモン・シネックが提唱した「ゴールデンサークル(Golden Circle)」という考え方があります。Simon Sinek氏は、「Why(なぜ)」「How(どうやって)」「What(何を)」という3つの円で、物事を整理して考えることを提案しています。
これをWeb活用や情報収集に当てはめると、次のようになります。
Why(なぜ):なぜその取り組みをするのか。どんな変化を起こしたいのか。What(何を):そのために、「何を」実現しなければならないのか。How(どうやって):それを、具体的に「どうやって」実行するのか。ツールや手法、運用体制など。多くの方が悩んでいる「最新トレンド・ツールへのキャッチアップ」は、この中のHow(どうやって)の部分にあたります。
ですが、本当に自社が主導権を持つべきなのは、Why(なぜやるのか)とWhat(何をするのか)の2つです。
「うちの顧客の行動や価値観は、こういう理由でこう変わってきている(Why)」「だから、自社としてはこういう接点や体験を作る必要がある(What)」この2つがある程度整理されていれば、How(手法)の部分は、外部の専門家と一緒に考えることもできます。逆に、WhyとWhatが曖昧なまま、「最近の流行りのHow」を次々に試しても、なかなか成果には結びつきません。
情報収集の目的も同じです。「新しいツールを知ること」そのものが目的ではなく、「なぜ変化が起きているのか」「それによって自社は何をすべきか」を理解することが目的です。
トレンドをつかむいちばんの近道は「目の前のお客さん」
では、「Why」と「What」をどうやってつかむか。ここで、少し意外に感じるかもしれませんが、
ネット上の情報をいくら読んでも、実はそれだけではよく分からない
ネットの記事やソーシャルメディアの投稿は、どうしても「特定の事例」や「一部の業界」に寄った話になりがちです。また、「誰にでも当てはまるノウハウ」のように見えるものでも、実際には背景条件が限られていることが多くあります。
一方で、皆さんには「自社のお客さん」という、何よりも信頼できる情報源があります。
最近、お客さんはどんな経路で問い合わせをしてきているかどのデバイスを使うことが多いか(スマートフォンか、パソコンか)どんな点を不安に感じているか、何を重視しているかリピートしてくれる人は、どこに価値を感じているかこうした変化を観察したり、直接聞いてみたりすることで、ネットの記事では得られない非常に濃い情報が手に入ります。
具体的にできること:社内・社外での情報交換
営業やカスタマーサポートとの定期的な情報交換
現場でお客さんと直接やり取りしている部署と、月に1回でも「最近のお客さんの変化」を共有する場を作る。
同業者との勉強会・情報交換会
同じ業界で信頼できる人たちと、小さな勉強会や雑談ベースの会を開き、「最近こういう相談が増えている」といった情報を持ち寄る。
簡易なユーザーテスト
自社サイトや資料を実際にお客さんに触ってもらい、「どこで迷ったか」「どこが分かりづらかったか」を見せてもらう。
ネット上に「これをやれば一気に良くなる」という万能なノウハウが並んでいても、実際にどこの会社でも再現できるようなものは多くありません。現場感覚としては、本当に効き目がある施策ほど、クローズドな場や個別の関係性の中で共有されることが多いと感じています。
だからこそ、目の前のお客さんと真剣に向き合い、社内外の信頼できる仲間と会話を重ねることが、結果として「トレンドを正しくつかむ」一番の近道になります。
「How」は外部パートナーと一緒に組み立てれば良い
ここまでの話を踏まえると、次のような役割分担が見えてきます。
社内で主導するべきなのは、「Why(なぜ)」「What(何を)」の部分「How(どうやって)」は、時代ごとの最適解を知っている外部パートナーと一緒に組み立てる「今の時代、その目的なら、こういう手段がコストパフォーマンスが良いですよ」といった情報は、日々複数の案件に触れている専門家の方が持っているケースが多いです。
一方で、「自社がどんなお客さんに、どう役立とうとしているのか」「どんな制約条件があるのか」を一番よく知っているのは、皆さん自身です。
自社の中で、お客さんの変化や自分たちの強み・制約条件を整理しておく(WhyとWhat)その上で、「この方向でやりたい」と外部パートナーに伝え、一緒にHowを作るという流れが、無理がなく、成果にもつながりやすいと感じています。
コンサルタントへの「依存」はゴールではない
ここで、コンサルタントという立場からも少しお話ししておきます。
外部のコンサルタントや制作会社に依頼するとき、「ずっと依存する」のではなく、「いずれは自社で回せる状態」に近づくためのパートナーとして関わってもらうのが健全だと考えています。
社内の組織体制や権限の整理部門間の連携(営業・カスタマーサポート・マーケティングなど)の橋渡し「お客さん起点」で考えられる文化づくりといった、いわば「土台」の部分です。ここは、外部の人間が訪問を重ね、各部門の話を聞きながら、時間をかけて変えていくことになります。それでも、変わるかどうかは会社次第です。
だからこそ、最終的には自分たちだけで回せるようになることをゴールに置き、その途中の期間に外部パートナーの力を借りる、という考え方がおすすめです。
私自身も、コンサルタントとしてお手伝いするときには、
「将来的に自社だけで運用できる状態」を見据えるそのために必要な考え方や仕組みづくりを、一緒に整えていくというスタンスで関わらせていただいています。枠の都合で多くは受けられませんが、実際には30社前後と並走しながら、試行錯誤しているのが日々の仕事です。
もちろん、得意な領域・不得意な領域はありますが、もし「自社のWhyとWhatを整理した上で、一緒にHowを考えてほしい」というニーズがあれば、ラウンドナップWebコンサルティングも選択肢の1つとして思い出していただければ嬉しいです。
AIだけは少し別枠で考えてみる
ここまで、「ツールや手法のHowに振り回されすぎない方が良い」という話をしてきましたが、AI(人工知能)だけは少し別枠で考えても良いと感じています。
AI関連のツールは変化がかなり速く、新しいサービスや機能が次々に登場しています。すべてを追いかける必要はありませんが、
代表的な汎用AIを1つ〜2つ、自分の業務に当てはめて試してみるという意味では、「とりあえず触ってみる」価値が高い領域です。
ChatGPT(チャット形式で文章作成やアイデア出しを支援するAI)Claude(長文の読み書きや思考の整理を得意とするAI)Gemini(Googleが提供する生成AIアシスタント)資料のたたき台づくりメール文面の整理アイデア出しや整理私自身も、以前は自分でゼロから作っていたものの一部をAIに任せられるようになり、正直なところ、かなり楽になりました。その分、より本質的な「考える仕事」に時間を使えるようになっています。
ただし、ソーシャルメディア上のAI関連情報は、どうしても盛り気味な表現が多くなりがちです。「AIを入れたらすべて解決」という話ではなく、業務の一部を少しずつ置き換えていくツールとして、冷静に付き合うのが良いと思います。
まとめ:ツールよりも「なぜ・何を」を握る
「最新トレンドについていけていない」という悩みには、周りから言われるケースと自分で焦るケースがある。ただし、どちらも根っこは「新しいものに対応できていない不安」であり、落ち着いて分解すれば整理できる。ツールや手法(How)は、2024年秋時点ではAIを除けば「まったく新しいもの」が次々出ている状況ではなく、運用スキルと考える力の方が重要になってきている。本当に押さえるべきは、サイモン・シネックのゴールデンサークルでいうWhy(なぜ)とWhat(何を)。Howは外部パートナーと一緒に考えれば良い。トレンドをつかむ一番の近道は、ネット上の一般論よりも、自社のお客さんの変化を観察し、社内外の信頼できる人たちと情報交換すること。コンサルタントや制作会社には永続的に依存するのではなく、「いずれ自社で回せる状態」に向けたパートナーとして関わってもらうのがおすすめ。AIツールだけは、業務効率化という意味で、代表的なものを実際に触ってみる価値が高い。自社のお客さんの変化を書き出してみる社内の営業やカスタマーサポートと一度、時間を取って話をしてみる信頼できそうな専門家候補を探し、「うちの状況だとどう考えるべきか」とラフに相談してみるAIツールを1つ選び、1ヶ月だけでも本気で使ってみるもし、「うちの場合はどう整理すべきか分からない」「社内で話してもなかなか前に進まない」といったお悩みがあれば、ラウンドナップWebコンサルティングでもご相談をお受けしています。無理に何かを売り込む場ではありませんので、気になるところがあれば、お問い合わせフォームから気軽にご連絡ください。
関連リンク
本文中で触れた概念やツールについて、参考になりそうな公式情報をいくつか挙げておきます。
The Golden Circle(サイモン・シネック公式サイト)Google アナリティクス ヘルプセンター(Google公式)ChatGPT の紹介ページ(OpenAI公式)Claude 製品概要(Anthropic公式)Gemini(Google公式 AI アシスタント)よくある質問
Q1. Webの最新トレンドやツールを全部追えていないのですが、大丈夫でしょうか。
A1. すべてを追う必要はありません。重要なのは、ツールや手法(How)よりも、「なぜ取り組むのか(Why)」「何を実現したいのか(What)」を整理することです。その上で、自社に関係が深い領域だけを優先的に押さえれば十分です。
Q2. 経営層から「最近のデジタルの流行にはどう対応しているのか」と聞かれたとき、どう答えればよいですか。
A2. 「やっている/やっていない」だけで答えるのではなく、「自社のお客さんの状況は今こう変わっていて、それに対してこの方向性で取り組んでいる(または優先順位をつけている)」という形で、WhyとWhatをセットで説明すると納得してもらいやすくなります。
Q3. トレンド把握のために、ネットメディアの記事はどこまで信用してよいのでしょうか。
A3. メディア名だけで判断するのではなく、「誰が書いているか」を重視するのがおすすめです。実務経験があり、一貫した発信をしている人の記事を中心に追うと、現場で役立つ情報に出会いやすくなります。
Q4. Webの施策を考えるとき、自社で考えるべきことと外部パートナーに任せるべきことの境界はどこですか。
A4. 自社で主導するべきなのは、「なぜその施策を行うのか」「どんなお客さんに何を届けたいのか」といった方針部分です。一方で、具体的な手段や運用方法は、時代ごとの最適解を知っている専門家と一緒に設計する方が効率的なことが多いです。
Q5. AIツールはどこまで追いかけるべきでしょうか。
A5. すべてのAIツールを追う必要はありませんが、ChatGPTやClaude、Geminiなどの代表的なサービスを1つ〜2つ実際に使ってみることをおすすめします。まずは資料作成やメールの下書きなど、「日々の業務の一部」を置き換えてみるところから始めると、効果を実感しやすくなります。
配信スタンド
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